富田林署逃走事件と加重逃走罪
富田林署で被疑者逃走の報道
富田林署のみブザー電池抜き取り https://t.co/krsLOJg3Xk
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富田林署では、ブザーの音がうるさいと、勾留中の被疑者からクレームがあったので、電池を抜いたとの事です。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) August 14, 2018
富田林署逃走:アクリル板30年間交換せず – 毎日新聞 https://t.co/jg3zbxmzOM
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アクリル板は接着剤でつけてあるのか。。確かに接着剤が劣化していたら、足で蹴るなどしたら外れる可能性はありそうですね。
— 弁護士齋藤理央 (@b_saitorio) August 14, 2018
弁護士として警察署の留置係で被疑者の方と接見する機会があります。接見室には、お互いの顔が見えるように透明のアクリル板がお互いを隔てています。
透明なのは、お互いを見えるようにするためなどの配慮だと考えれます。
ただ、それ以前に鉄格子などで遮断せずにアクリル板を利用しているのは、手足や飛び道具などもお互いに当たらないように、であるとか、物の受け渡しも出来ないように、という狙いに基づくと考えられます。
あのアクリル板は、紙一枚通さないように設計されていて、秘密の暗号文や、自殺用の毒薬なども渡すことができないようになっています。
唯一あのアクリル板を通るのは、穴が空いている場所をずらして針さえも通らないように工夫された2重のアクリル板に開けられたいくつかの小さな穴を通る、お互いの声だけです。
それだけ厳密に設計されたアクリル板ですが、接着剤の劣化によって接着が弱くなっていた、というのは、おそらく誰も気づかなかった盲点というものではないかと思います。
なお、弁護人が声かけをすべきだった、という意見もあるようですが警察署によっては「接見後の声かけは必要ありません」というような趣旨の張り紙が貼られているような留置係もあり、そうなるとこちらとしても声かけはしないほうが良いのかな、と遠慮してしまう場合もあります。
そうは言っても習慣で接見終了後声かけをしていますが、必ずしも弁護人に声かけが求められているわけではない(むしろしなくて良いと明言してる場合もある)ことには留意が必要かと思います。
逃走の罪
前回のエントリ(ブログ記事)でも記載した、こちらの事件ですが現在、加重逃走罪で全国に指名手配されているとのことです。
では、加重逃走罪とは、どういった犯罪なのでしょうか。
刑法は、第6章に「逃走」という章を設けて、以下の通り構成要件(犯罪が成立するための条件)を定めています。
刑法第六章 逃走の罪
(逃走)
刑法第九十七条 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。(加重逃走)
刑法第九十八条 前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
このように、基本類型として逃走罪があり、態様が悪質なものについては加重逃走罪というより刑罰の重たい犯罪類型として取り扱われています。
基本類型の逃走罪は、既決又は未決の者が主体になります。今回は、まだ、刑事訴訟が始まってもいない段階でしたから、「未決の者」ということになります。
「逃走」というのは、看守者の支配から脱することを言うと考えられています。今回のケースでいうと富田林署が行っている留置支配を脱したときに「逃走」したということになります。時刻は未定ですが、気付かれないまま接見室から抜け出した時点、あるいは富田林署の建物から出た時点で留置支配から脱したといえるので、逃走が既遂となります。
加重逃走
さらに今回は、加重逃走というより重たい犯罪が成立するケースとして全国に指名手配されています。
加重逃走罪は、逃走のために「拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀し」た場合に成立することと条件が決められています。いくつかの悪質な態様について特に重く処罰することとしています。
今回は、脱出のためにアクリル板を壊した、接着部をはがしたというようなことが報道されていますので、おそらく「拘禁場…の器具を損壊し」て、「逃走」したものとして加重逃走罪の嫌疑がかけられているのだと考えられます。
有罪の部分判決
令和2年5月8日有罪の部分判決が言い渡されたとの報道がありました。この後、強盗致傷について裁判員裁判で有罪か否かを審理され、さらに強盗致傷罪が有罪とされた場合は、今回有罪とされた部分と合わせて量刑を審理するとのことです。
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