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①行政裁量

行政裁量とは、法律が行政機関に独自の判断余地を与え、一定の活動に自由を認めている場合をいいます。行政裁量は、行政行為に限られず、行政立法、行政契約、行政計画など、あらゆる場面で問題になります。

例えば、プロバイダ責任制限法は、総務省に総務省令を委任していますが、総務省令の立法行為について一定の裁量が与えられています。

②行政裁量の司法審査

法律が一定の裁量を認めている以上、裁量の範囲内では法律の解釈、適用の問題を生じないことになります。したがって、裁判所の司法審査は、裁量の逸脱、濫用の点に限られることになります(行政事件訴訟法30条)。すなわち、立法者が行政機関に裁量権を与えた趣旨に反する場合に初めて、違法判断が下されることになします。

行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。

行政事件訴訟法第三十条(裁量処分の取消し) 

注1)なお、裁量の範囲内の行為であっても、当該行政行為について、当・不当の問題は生じる。したがって、不当な行為について、行政不服申し立てによる是正が及ぶことは、ありうる。

③裁量統制の構造

伝統的には、羈束行為と、裁量行為に二分した上で、裁量行為に司法審査を及ぼすための概念として法規裁量行為を観念して、司法審査の及ばない自由裁量行為と区別するのが、裁量統制の理論構成でした。しかし、現在では、裁量行為にも行政事件訴訟法30条により司法審査が及ぶことが明言されています。したがって、法規裁量と自由裁量という概念枠組みは、一定程度重要性を失っています。現在ではむしろ、いかなる場合に裁量の逸脱・濫用といえるかに、裁量統制の理論構築の重点は、移っています。

④裁量が認められるステージ

自由裁量が観念できるポイントについて、要件裁量説と、効果裁量説の対立がありました。しかし、現在では要件、効果両方に裁量が観念できることに、争いはありません。また、自由裁量という観念が重要性を失った今、ⅰ.国民の権利を制限する消極的規制については裁量の余地が狭く、ⅱ.国民に権利を与える積極的規制については、裁量の余地が広いという、目安が重要です。

④-①要件裁量

政治的に高度な判断が要求される事案や、専門技術的事項に関わる事案については、要件裁量が広く認められます。したがって、行政機関のした判断に裁量の逸脱、濫用がある場合に初めて、司法審査が及ぶことになります。

④-②効果裁量

効果裁量については、どのような行動を選択するかの段階と、実際に処分をする、しないの段階を観念できます。処分をすべきであるのに、しないことは、不作為の違法性の問題です。この点に関して権限の不行使について、一定の場合裁量権が収縮するとの見解もあります。しかし、判例は、処分をしないことが著しく不合理であることが明白な場合に限って、処分が違法となるとします。

④-③事実認定

判例(最判平成18年11月2日-小田急高架訴訟本案判決)は、判断の基礎とされた重要な事実について、事実誤認などにより基礎を欠く場合、裁量権の逸脱・濫用に該当すると判示します。すなわち、判断の基礎とされた重要な事実が基礎を欠けば、行政の判断は裁量を付与される前提を欠き、裁量権を与えた趣旨に反します。

④-④時の裁量

効果裁量の一要素として、何時その行為を行うかという、時の裁量を認める見解があります。判例(最判昭和60年7月16日-品川マンション事件)は、建築主事に建築確認を留保する余地を認めました。すなわち、行政行為を留保することが、社会通念上合理的と認められる場合、留保も適法となると判示しました。もっとも、判例は事例の結論としては、留保は違法としました。

⑤裁量統制の基準

裁判所が行政庁の裁量行為を審査する場合の具体的審査基準が問題となります。

⑤-①判断過程審査

行政機関の行動に一定の自由が認められる場合、裁量に基づいた行為の違法性は裁量権の逸脱、濫用によってしか、審査されません。そして裁判所は、裁量権の逸脱・濫用を審査する際、行政庁が実際に行った行為に着目するのではなく、行為にいたった判断過程に過誤が無いかに重点をおいています。すなわち、判断過程に過誤があれば、行政機関の裁量の趣旨に反した行動が推測されることになります。たとえば判例(東京高判昭和48年7月13日-日光太郎杉事件)は、ⅰ.考慮すべき事項を考慮しなかったこと、ⅱ.考慮すべきでない事項を考慮したこと、ⅲ.過大に評価すべきでない事項を過重に評価したこと、によって、判断が左右された場合、処分は裁量を逸脱して違法となると判示しています。

⑤-②判断の過誤

以上の判断過程審査を加味し、行政の判断に過誤がある場合に、行政権が裁量を行使する前提を欠き、法規の趣旨に違背するとして、裁量権の逸脱、濫用が認められます。すなわち、ⅰ.判断の前提とされた重要な事実が、事実誤認などによりその基礎を欠く場合、ⅱ.判断内容が社会通念上著しく妥当性を欠く場合に、違法の評価が下されます(前掲小田急高架訴訟本案判決)。そして、ⅱ.を導く要素として、Ⅰ.事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、Ⅱ.考慮すべき事項を考慮していないこと、などが挙げられます。

⑤-③目的違反・動機違反

法律の趣旨と異なる目的・動機で処分をなした場合、処分は違法となります(最大判昭和42年5月24日、最判昭和48年9月14日)。

⑤-④信義則

裁量内の行為であっても、行為に信義則違反がある場合、違法の評価が下ります。

⑤-⑤比例原則

裁量の範囲内の行為であっても、明らかに必要でない場合や、必要性の程度を超える処分がされた場合、比例原則違反として、違法と評価されるます。
注1)もっとも、比例原則違反は、判断の合理性の問題として、判断の過誤の審査において問題ともしえる。

⑤-⑥人権

平等権をはじめとする、人権侵害の有無、程度は、裁量統制に加味されます。人権の性質、制約の程度によって、裁量が狭くなる場面もありうると考えられます。

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