令和3年7月令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイトは、「インターネットを介したデジタル・アート配信および鑑賞の制御ならびに画像形成のためのシステムおよび方法とする発明」について、特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟です。
争点は,進歩性についての認定判断の誤りの有無でした。すなわち、引用発明から、本願発明が容易に想到できるか否かの点でした。
目次
本願に係る発明
令和2年3月12日付けの手続補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は,次のとおりでした。ただし,本願発明8の各構成の冒頭の符号(A)~(K)[枝番を含む。]は,本件審決において説明のために付されたものでした。
【請求項1】 処理コントローラと,メモリと,表示画面とを備えたディスプレイ装置に,表示用のデジタル・コンテンツを記憶するためのシステムであって, 1つまたは複数のディスプレイ装置の表示画面上に表示されるように構成された,少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムと, 通信コントローラ,インターフェース・サーバおよびサービス管理システムを含むコンテンツ・サービス・クラウドを有するサービス・クラウドと を備え,前記サービス・クラウドは, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを記憶して管理するように構成された保護記憶システムと, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを表示するように構成された前記1つまたは複数のディスプレイ装置と通信するように構成された,通信コントローラと, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記1つまたは複数のディスプレイ装置に供給することを制御するように構成された供給エンジンと, 前記供給エンジンにより供給を受けた,前記1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータを,収集するように構成されたサービス管理システムと, 前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの選択のために,インターネットを介して,メモリ,プロセッサおよびユーザ入力装置を具備したコンピュータ上で稼働するアプリケーションのインターフェースとなるように構成されたサーバと, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの導入を制御するように構成されたデジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンと, 認証されたデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・クラウドの外部の創作地点から,前記インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと転送するように構成された外部コンテンツ・ゲートウェイと, コンテンツを,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へ,前記サービス・クラウドの外部の1つまたは複数の外部供給源から提供するように構成されたライブ・データ・フィード・ゲートウェイと,を備え, 前記ユーザ入力装置による前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記選択に応答して,前記通信コントローラは,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記インターネットを介して,前記ディスプレイ装置の前記表示画面へ送信するように構成され, 前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンは,前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを解析し修正するように構成され, 前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンは,低容量取込および大容量取込を含む取込作業フローを備える,システム。
【請求項2】 前記アプリケーションを通してアクセス可能なソーシャル・ネットワーク機能を可能とするように構成されたソーシャル・ネットワーク・エンジンと, 前記サービス・クラウドのユーザに関する情報を管理するように構成された顧客関係管理エンジンと, ユーザが,前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するために,前記供給エンジンにより管理された前記1つまたは複数のデジタル・コンテンツ・アイテムを,販売,購入,または貸与することができるように構成された商取引エンジンと,のうちの1つまたは複数を,さらに備えた,請求項1に記載のシステム。
【請求項3】 前記デジタル・コンテンツは,静止画,動画,対話画像,およびアプリ画像のうちの1つまたは複数を備えた,請求項1に記載のシステム。
【請求項4】 前記供給エンジンによる前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記供給は, 前記1つまたは複数のディスプレイ装置が,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを記憶および/または鑑賞するための権利を,取得済であることを保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムが,その創作者により設定された鑑賞ルールに従って表示されることを保証すること, デジタル・フレームまたはデジタル・マットを,表示のための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムに追加すること,ならびに, 前記サービス・クラウドへのデジタル・コンテンツの権限なきアクセスを防止することのうちの1つまたは複数を含む,請求項1に記載のシステム。
【請求項5】 前記ソーシャル・ネットワーク・エンジンは,ピクチャおよびビデオを,前記保護記憶システム内のユーザのプライベート・ライブラリ内に,アップロードするように構成されたソーシャル配信システムを備えた,請求項2に記載のシステム。
【請求項6】 前記アップロードされたピクチャおよびビデオを,それらが前記保護記憶システム内に記憶される前に保護するように構成された前記ソーシャル配信システムと通信するサード・パーティ・キー管理システムを,さらに備えた,請求項5に記載のシステム。
【請求項7】 前記商取引エンジンは,デジタル所有権を実行することを含み,この実行は, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの所有権の適切な移転を保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの創作者により設定された認証された配信規則を,実行することを保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの転売のための商取引条件を,実行すること,ならびに, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの正当性および唯一性を保護するとともに,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムへの権限なきアクセスを防止することの1つまたは複数によりなされる,請求項2に記載のシステム。
【請求項8】 (A) 処理コントローラと,メモリと,表示画面とを備えたディスプレイ装置に,表示用のデジタル・コンテンツを記憶するための方法であって, (B) 1つまたは複数のディスプレイ装置の表示画面上に表示されるように構成された,少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを用意することと, (C) 通信コントローラ,インターフェース・サーバおよびサービス管理システムを含むコンテンツ・サービス・クラウドを有するサービス・クラウドであって,サーバ,メモリ,およびプロセッサを備えたサービス・クラウドを用意することと, (D) 前記サービス・クラウドの保護記憶システムにより,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを記憶および管理することと, (E1) 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを表示するように構成された前記1つまたは複数のディスプレイ装置の前記処理コントローラと,前記サービス・クラウドの通信コントローラにより,通信することと, (F1) 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記サービス・クラウドの前記保護記憶システムへの導入を,前記サービス・クラウドのデジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより制御することと, (G) 前記1つまたは複数のディスプレイ装置上の前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの供給を,前記サービス・クラウドの供給エンジンにより制御することと, (H) 前記供給エンジンにより供給を受けた,前記1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータを,前記サービス・クラウドのサービス管理システムにより収集することと, (I) 前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの選択のために,前記サービス・クラウドのサーバにより,メモリ,プロセッサおよびユーザ入力装置を備えたコンピュータ上で稼働するアプリケーションのインターフェースとなることと, (J) 認証されたデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・クラウドの外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送することと, (K) コンテンツを,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へ,前記サービス・クラウドの外部の1つまたは複数の外部供給源から,前記サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイにより提供することと, (E2) 前記ユーザ入力装置による前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記選択に応答して,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ製品を,前記インターネットを介して,前記ディスプレイ装置の前記表示画面へと,前記通信コントローラにより送信することと, (F2) 前記1つまたは複数のディスプレイ装置上に表示するための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析することとを含み, (F3) 前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンは,低容量取込および大容量取込を含む取込作業フローを備える, (A) 方法。
【請求項9】 前記サービス・クラウドのソーシャル・ネットワーク・エンジンにより,前記アプリケーションを通してアクセス可能なソーシャル・ネットワーク機能を可能とすること, 前記サービス・クラウドの顧客関係管理エンジンにより,前記サービス・クラウドのユーザに関する情報を,取得すること,ならびに, 前記ユーザによる販売,購入,または貸与のため,前記1つまたは複数のディスプレイ装置上での表示のために,前記供給エンジンにより管理された前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記サービス・クラウドの商取引エンジンにより提供することのうちの1つまたは複数を,さらに含む,請求項8に記載の方法。
【請求項10】 前記デジタル・コンテンツは,静止画,動画,対話画像,およびアプリ画像のうちの1つまたは複数を備えた,請求項8に記載の方法。
【請求項11】 前記供給エンジンによる前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの前記供給は, 前記1つまたは複数のディスプレイ装置が,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを記憶および/または鑑賞するための権利を,取得済であることを保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムが,その創作者により設定された鑑賞ルールに従って表示されることを保証すること, デジタル・フレームまたはデジタル・マットを,表示のための前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムに追加すること,ならびに, 前記サービス・クラウドへのデジタル・コンテンツの権限なきアクセスを防止することのうちの1つまたは複数を含む,請求項8に記載の方法。
【請求項12】 ピクチャおよびビデオを,前記保護記憶システム内のユーザのプライベート・ライブラリへと,前記ソーシャル・ネットワーク・エンジンのソーシャル配信システムによりアップロードすることを,さらに含む,請求項9に記載の方法。
【請求項13】 前記アップロードされたピクチャおよびビデオを,前記保護記憶システムにより記憶する前に,前記ソーシャル配信システムと通信するサード・パーティ・キー管理システムにより保護することをさらに含む,請求項12に記載の方法。
【請求項14】 前記商取引エンジンにより,デジタル所有権を実行することを,さらに含み,前記実行は, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの所有権の適切な移転を保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの創作者により設定された認証された配信規則を,実行することを保証すること, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの転売のための商取引条件を,実行すること,ならびに, 前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムの正当性および唯一性を保護するとともに,前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムへの権限なきアクセスを防止することの1つまたは複数によりなされる,請求項9に記載の方法。
引用発明等
引用発明
(a)mpxを通じて,(b)取込,(c)自動発行及び配信,(d)柔軟な配信及び記録,(e)収益化等の複合的なタスクを実行可能な方法であって, (b) 取込サービスは,以下の2つの方法を提供し, (b1) フィードリーダは,ユーザのフィードを監視し,コンテンツの追加又は変更をアカウントに自動的にアップロードし, (b2) mpxアップローダは,アプリケーションとして動作し,任意の数及びサイズのファイルを選択してバックグラウンドでアップロードし, (c) 自動発行及び配信サービスは,ファイル選択,トランスコーディング及びアセットタイプの適用といった発行プロセス全体を自動化してユーザに提供し, (d1) 柔軟な配信及び記録サービスは,ユーザのコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を管理するためのクリーンで効率的なインターフェースを提供し, (d2) mpxは,以下の3つのタイプの配信をサポートし,CDNが提供するサービスに応じて,サーバベースで配信タイプを組み合わせることができ, (d21) ストリーミングサーバ又はサーバを使用して即時再生のためにファイルをプレイヤにストリーミングするタイプ, (d22) 格納及びオフライン再生のためにファイルをクライアントにダウンロードするタイプ, (d23) オリジンサーバからファイルを引き出し,CDNのエッジ・キャッシュに移動させるタイプ, (d3) AkamaiTechnologies,Inc.等とのCDN統合はユーザに配信選択肢の柔軟性を提供し, (e1) 収益化は,広告ベース,サブスクリプションベース及びペイパービュー方式をサポートする,広告及び収益化技術プロバイダーとの統合を提供し, (e2) 収益化は,ユーザに,サブスクリプション,ペイパービュー,VOD,レンタル,バンドルを含む種々のコンテンツ購入方法を提供し, (f1) プレイヤサービスは,ホストサービスを通じて,OTTデバイスのために構築されたプレイヤを提供し, (f2) プレイヤサービスは,全画面再生,共有,自動スタート再生及びパートナープラグインのサポートを含む, (g) そのビデオ管理システムをアプリケーション・サービス・プロバイダ(ASP)として運営される, (a) 方法
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト(thePlatform「mpx Overview White Paper」)
甲2技術
(h)クライアントに対してファイルを配信する方法において, (h1) 複数のクライアント211におけるファイルの受信品質の指標,および複数のクライアント211の受信性能の指標を含む品質情報を取得し, (h2) 取得された品質情報の示す受信品質および受信性能に基づいて,複数のクライアント211を複数のグループに分け,グループごとにファイルの配信を制御し, (h3) サーバおよびクライアント間の回線状態,クライアントの動作状態,ならびに各クライアントの固定的なスペック値に応じて,より効率的なファイル配信を実現する 技術
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト(特開2011-253432号公報)
甲3技術
(i)ピアツーピア(P2P,Peer to Peer)システムに係る情報送信システムにおいて, (i1) ピア1A~1Iは,パーソナルコンピュータ,PDA,携帯電話などのネットワーク接続可能なハードウェアであって, (i2) P2PネットワークNT2は,ピア1の持つデータを管理する情報管理サーバ5が接続され, (i3) 情報管理サーバ5は,メタデータ管理部503と,メタデータ部504とを有し, (j) ピア1が行うデータ/メタデータ生成処理の手順,データの検索及び取得処理の手順は, (j1) ピア1Aにおいて,メタデータ生成部111は,配信対象のデータを新たに生成した場合,当該データのメタデータを新たに生成し,新たに生成したメタデータを情報管理サーバ5に送信し, (j2) ピア1Bは,ユーザの所望するデータ,もしくは,あらかじめ指定されていたデータの検索を要求する検索リクエストを情報管理サーバ5に送信し, (j3) 情報管理サーバ5は,当該検索リクエストを受信すると,メタデータ部504に記憶されているメタデータを用いて該当のデータを検索し,当該メタデータを検索結果に含めて当該ピア1Bに対して送信し, (j4) ピア1Bは,情報管理サーバ5から送信された検索結果を受信すると,当該検索結果から所望のデータを選択し,選択したデータがピア1Aに保持されているものとすると,ピア1Bは,当該1Aに対して該当のデータの送信を要求し,そして,ピア1Bは,当該要求に従ってピア1Aから送信されたデータを取得する, 技術
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト(特開2008-234206号公報)
甲4技術
(k)オンラインサービスコンピューティング装置108からの広告及びコンテンツアイテムを受信し且つ該広告及び該コンテンツアイテムにアクセスするためにユーザによってアクセスされる,ユーザ装置310において (k1) サービスインタフェース364は,インターネットブラウザとして実施され,サービスインタフェース364は,コンテンツアイテムを受信し,且つ,例えば図3Bを参照して以下に詳細に説明するようなグラフィカルユーザインタフェース画像を表示し, (k2) 図3Bのコンテンツアイテムは,多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテムを供給するオンラインソーシャルネットワーキングサービスから受信されたものであり, ユーザコンテンツアイテムは,ナビゲーション領域380,ニュースフィード表示領域382及び広告領域384を備え, ナビゲーション領域380は,ユーザがオンラインサービスにより提供される別のサービスに移動できるようにし, 種々のタブ(例えば“ニュースフィード”,“アプリケーション”,“写真”,“リンク”,“ビデオ”,“もっと見る”)がクリックされると,ブラウザは,クリックされたタブに応じたコンテンツアイテムを要求する要求をオンラインサービスコンピューティング装置108に送信して,且つ,受信されたコンテンツアイテムを処理することによりスクリーン上に画像を表示し, (k3) ニュースフィード表示領域382は,オンラインサービスコンピューティング装置108経由でコンテンツを共有しているユーザ又は「友達」により供給されたニュースフィードを表示し, (k4) 図3Bに示すコンテンツアイテムは例示に過ぎず, 他の種々のレイアウトの他の種々のコンテンツアイテムが,インターネットブラウザ320を用いてスクリーン320に表示され得, 例えば,インターネットブラウザによりアクセスされるコンテンツアイテムは,検索語に対する検索結果,オンラインニュース記事及びオンラインショッピングに関する情報を含む, 技術
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト(国際公開第2011/056388号)
甲5技術
(m)画像データに画像処理を施す画像処理システムの画像処理装置100_1´において, (m1) 画像処理装置100_1´は,画像解析部12,濃度取得部13,濃度補正値統合部14,画像処理部15を備え, (m2) 画像処理装置100_1´は,画像データが表わす画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正するオートセットアップ機能が搭載されており, (m3) 画像解析部12は,与えられた入力画像データが表わす入力画像中に,あらかじめ定められた複数の被写体種類のそれぞれが,どの程度の割合(確からしさ)で含まれているかを表す確信度を,被写体種類ごとに算出し, (m4) 濃度取得部13は,入力画像の濃度補正のための値(濃度補正値)を,入力画像データに基づいて算出し, (m5) 濃度補正値統合部14は,被写体種類ごとの濃度補正値を,被写体種類ごとの確信度,入力される被写体種類ごとの重要度に基づいて統合し, (m6) 画像処理部15は,統合された濃度補正値に基づいて,入力画像データの濃度を補正する, 技術
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト(特開2006-303899号公報)
知的財産高等裁判所の判断
本件において、知的財産高等裁判所は、下記のとおり「以上によると,原告主張の取消事由のうち,相違点の認定の誤り及び相違点4に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がないが,相違点1に係る容易想到性の判断の誤り及び相違点2に係る容易想到性の判断の誤りは,いずれも理由がある。 …よって,原告の請求は理由があるから,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する」として、審決を取り消しました。
相違点1に係る構成の容易想到性について (特許庁の判断を否定)
すなわち、裁判所は、「甲2技術…で取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するもの」であり、「外部装置であるディスプレイ…から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない」のであるから、「OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず…本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある」と判示しています。
(1) 本件審決は,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提として,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることは一般的課題であるから,引用発明に甲2技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲2技術を適用した発明は,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構成を備える方法ということができ,同構成は,構成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構成に相当すると判断した。
(2) しかし,前記3(1)アの甲2の記載(段落【0002】,【0005】,【0012】,【0014】~【0018】,【0072】~【0079】,【0116】~【0123】等。特に,品質情報を具体的に記載した段落【0073】~【0078】)からすると,甲2技術は,ファイルの効率的な配信のための技術であって,そこで取得される品質情報は,クライアント計算機の性能や動作状態,あるいは回線状態などに関するものと認められる。なお,甲2の段落【0049】,【0050】,【0053】及び【図3】からすると,甲2において,サーバ201と同様の概略構成であり得るクライアント211がディスプレイ装置と接続されることは示唆されているが,他方で,ディスプレイ110は,あくまで,サーバ201に備わる表示コントローラ105と接続される外部装置として取り扱われており,そのような外部装置であるディスプレイ110から何らかの情報を取得することについての記載は見当たらない。 したがって,甲2技術における「受信品質の指標・・・および受信性能の指標を含む品質情報」に,ディスプレイ装置の品質等の情報が含まれているとまでは認められず,その点に係る技術常識等を認めるべき他の証拠もない。
(3) そうすると,仮に,引用発明の構成b1の「コンテンツ」及び構成f1の「OTTデバイス」が,それぞれ本願発明8の「デジタル・コンテンツ・アイテム」及び「ディスプレイ装置」に相当するという判断を前提とし,クライアントに対してファイルを配信する方法において配信の効率化を図ることが一般的課題であると解して,引用発明に甲2技術を適用し,OTTデバイスの「ファイルの受信品質および受信性能の指標を含む品質情報を取得する」構成を備えるものとしたとしても,直ちに「ディスプレイ装置」の「品質情報を取得する」ことまでをも含む構成になるということはできず,本願発明8の構成Hの「1つまたは複数のディスプレイ装置の動作状態および性能レベルを反映したデータをサービス管理システムにより収集する」構成に相当するものになるとはいえない。 よって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断には,誤りがある。 以上の認定判断に反する被告の主張は,採用することができない。
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト
相違点2に係る構成の容易想到性について (特許庁の判断を否定)
裁判所は、「甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は…それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にする」と述べ、「「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い」と判示しました。そして「本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある」と結論しています。
(1) 本件審決は,引用発明と甲3技術は,送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法である点において共通することから,引用発明に甲3技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるとし,引用発明に甲3技術を適用した発明は,OTTデバイス(ピア1A)から他のOTTデバイス(ピア1B)に対して,「ピア1Bは,ピア1Aに該当のデータの送信を要求する」構成を備える方法ということができ,当該構成は,構成Jの「外部の創作地点から,インターネットを介して,前記1つまたは複数のディスプレイ装置へと,前記サービス・クラウドの外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」構成に相当すると判断した。
(2) しかし,甲3技術がピアツーピアシステムに係るものである(構成i)のに対し,引用発明は,コンテンツの取込み,自動パブリッシング,配信及び格納並びに収益化等の複合的なタスクが実行可能であるもので,それ自体が主体的にコンテンツの取込みや配信等を行う方法であるものと解されるから,甲3技術と引用発明とは,少なからず技術分野を異にするものというべきである。この点,「送信クライアント,受信クライアント及びサーバとの間でデータ送受信を行う方法」という広い技術分野に属することから直ちに,それらの関係性等を一切考慮することなく,引用発明に甲3技術を適用することを容易に想到することができるものとは認め難い。 そして,甲3に,他に,甲3技術を引用発明に適用する動機付けや示唆となる記載があるとも認め難い。 よって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがある。
(3) 被告は,本願明細書(甲6)の段落【0130】の記載を踏まえて,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」という文言の意味について,「デジタル・コンテンツ・アイテム」が「外部コンテンツ・ゲートウェイ」を経由するか否かにかかわらず,「外部コンテンツ・ゲートウェイ」の機能「により転送する」ことをいうと主張するが,上記(2)の判断は,本願発明8の構成Jにいう「外部コンテンツ・ゲートウェイにより転送する」を上記の被告が主張するように理解したとしても左右されるものではない。
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト
相違点3に係る構成の容易想到性について
(1) 本願発明8の構成Kの「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」については,構成Kの文言によると,サービス・クラウドに備えられ,コンテンツをサービス・クラウドの外部の供給源からディスプレイ装置に提供する機能を有するものと認められ(前記1(2)ウ(ク)),また,「ライブ・データ・フィード」という用語からすると,外部の供給源から供給されるデータには「ライブ」の要素が含まれるものと解される。 しかるに,甲4技術が,上記の「ライブ」の要素が含まれるデータの供給に関する構成を含むものであるかは明らかでない。 したがって,引用発明に甲4技術を適用しても,直ちに本願発明8の構成Kに至るものかは,明らかでない。
(2) 本件審決は,甲4技術の構成kの「オンラインサービスコンピューティング装置108」が,本願発明8の「ライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」に相当すると判断したが,上記(1)の点に関し,この判断の根拠が明確にされているとはいえない。 また,被告は,甲4技術の「オンラインサービスコンピューティング装置108」は,コンテンツアイテムを外部供給源(「オンラインソーシャルネットワーキングサービス」)から受信してユーザ装置310に送信するから,データを一方から他方へ転送する制御機能を有する「ゲートウェイ」に相当するとした上で,データは「多数のユーザにより投稿され共有された種々のメディアコンテンツアイテム」や「コンテンツを共有しているユーザ又は『友達』により供給されたニュースフィード」を含むから,上記ゲートウェイは「サービス・クラウドのライブ・データ・フィード・ゲートウェイ」といえると主張するが,上記(1)の点に関し,その根拠が明確にされているとはいえない。
(3) 以上の点は,原告が取消事由として主張するものではないが,特許庁において更なる審理判断がされることを考慮して判示するものである。
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト
相違点4に係る構成の容易想到性について(特許庁の判断を肯定)
裁判所は、「引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有する」とし、「引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる」としています。
そして,引用発明に甲5技術を適用した発明…の構成は,「本願発明8の構成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる」として「相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである」と結論づけています。
(1) 引用発明と甲5技術は,いずれもサーバにコンテンツを取り込む方法に係るものであるという点で技術的な共通性を有するといえ,引用発明に甲5技術を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。 そして,引用発明に甲5技術を適用した発明は,OTTデバイスに表示するための「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構成を備える方法ということができ,この構成は,本願発明8の構成F2の「前記少なくとも1つのデジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」構成に相当するということができる。 よって,相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2)ア 原告は,本願発明における解析は,ユーザが視聴するための,映画やテレビ番組等のコンテンツをディスプレイ装置に送信するために行われるものであるところ,ユーザにおいてそれらの画像の特定の部分(顔等)を調整したいという要求はないから,甲5技術に係る「画像データが表す画像の被写体種類(シーン)を解析して,画像の色を,被写体種類ごとに予め記憶された目標濃度に補正する」構成は,本願発明8の構成F2には相当しないと主張する。 しかし,本願発明8の構成F2は,「ディスプレイ装置上に表示するための」「デジタル・コンテンツ・アイテムを,前記デジタル・メディア・コンテンツ取込エンジンにより解析する」というもので,「解析」の具体的な内容については記載されていない。そして,本願発明8の構成中に,「デジタル・コンテンツ・アイテム」について,原告の主張するような内容のものに特定する旨の記載もなく,他に本願発明8の構成F2の「解析」を原告の主張するように限定して解釈すべき理由はない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
イ 原告は,本願明細書の段落【0119】の記載から,本願発明8の構成F2の「解析」は,ビジュアル及び音響コンテンツの両方に対して行われ得るもので,甲5技術の「解析」とは異なる旨を主張するが,本願の特許請求の範囲の請求項8には,「音」について何ら記載がなく,上記アのような記載があるのみであるから,本願発明8の構成F2の「解析」が音響に対しても行われるものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 原告は,引用発明と甲5技術とを組み合わせる動機付けはなく,シーンごとに画像の特定の部分を調整するために,オペレータの好みに従って事前に手動で入力される「目標濃度」を用い,オートセットアップ機能を介して,画像を調整するという甲5技術の「解析」の特徴は,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行う本願発明の「解析」とは対照的であって,甲5技術の「解析」を本願発明に組み込むことは,無意味であり,逆効果であると主張するが,上記アで指摘したのと同様,本願発明8における「解析」について,特定の装置の技術的仕様に画像をより良好に適合させるために画像の調整を行うためのものと限定して解釈すべき理由はないから,原告の上記主張も,前提を欠くものであって採用することができない。
令和3年7月29日知的財産高等裁判所判決・裁判所ウェブサイト