①伝聞法則:「公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない」(刑訴法320条1項)。供述証拠は、知覚、記憶、叙述の各過程を経るため、誤りが生じやすい。そこで、公判廷における反対尋問による、真実性テストの機会を保障する趣旨で刑訴法320条1項が設けられた。
②伝聞証拠:。伝聞証拠とは、形式的に「供述に代え」た「書面」又は「供述を内容とする供述」証拠を指す。しかし、伝聞法則の趣旨は、真実性のテストを経ない供述証拠を訴訟から排除する点にある。したがって、内容の真実性が問題となる、反対尋問を経ない供述証拠全般が伝聞証拠に該当すると解する(320条1項の文言からは乖離した実質的基準といえる。)。
③精神状態に関する供述:原供述者の内心を吐露する原供述が反対尋問を経ないとき、伝聞法則の適用はあるのか。反対尋問を経ない以上、伝聞証拠に該当するように思われる。しかし、精神状態に関する供述は、知覚、記憶の過程を経ず、また、公判廷時より、当時の供述の方に真実性が認められる。したがって、反対尋問による真実性担保の趣旨が該当せず、伝聞法則の適用は、ないものと解する。
④謀議メモ:被告人との謀議をメモした書面は、伝聞証拠にあたるか。共謀とは、犯罪を自己のものとして共同して実行する内心を、相手方と相互認識している状態をいう。とすれば、謀議メモの存在それ自体が共謀を推認させ、また、謀議メモの内容が被告人の内心を推認せしめる両面性を有するが、いずれの点からも、伝聞証拠には当たらない。
⑤伝聞例外:320条1項は、「第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては」と規定し、伝聞法則に例外を認めている。例外を認めた趣旨は、有用性の高い証拠のうち、すでに真実性が一定程度担保されている証拠、反対尋問権者がいない証拠などを、伝聞法則から除外する点にある。
⑥再伝聞:伝聞証拠のなかに、さらに、伝聞証拠となる他の供述が含まれている場合(Aは、「Bが「Cが、Xの殺害現場をみた」といっていた」旨を供述した場合)、伝聞例外を2重に適用して証拠能力を認めてよいか。明文がないため問題となる。この点、特にこれを認める明文もないがこれを禁止する明文もないため、2重に例外要件を満たし、格別に証拠能力を認める必要性と許容性が肯定される以上、証拠能力を肯定してよいと思われる。