iTやコンテンツの法律・知財問題を解決するリーガルサービス提供を重視しています

令和2年7月21日最高裁判所第三小法廷は、平成30年(受)第1412号 発信者情報開示請求事件について、一審被告の上告を棄却する判決を言い渡しました。

弁護士齋藤理央は、このいわゆるリツイート事件といわれるSNS上の著作権侵害が問題となった事件について、一審から代理人を担当しました。

弁護士齋藤理央のツイッターを運営するXcorp.に対する発信者情報開示については詳細は下記リンク先をご確認ください。

PR このように弊所は著作権、サイバー法領域について最高裁判例から相談業務まで幅広く経験があります。著作権やインターネット領域の法律問題でお困りの際はお気軽にご相談ください。

    インターネットの権利侵害の場合サイトやSNSアカウントのURLをご記載ください(任意)

    ※ファイル添付の場合など直接メールをしたい場合は、メールアドレス 『  infoアットマークns2law.jp  』 までご連絡頂くことも可能です。送信の際、アットマークを@に変換してください。

    下記リンク先では、リツイート事件と同じインターネット上の無断転載事案に対する弁護士齋藤理央の業務内容について詳述しています。

    目次

    用語の整理

    まず、用語の整理からしていきたいと思います。

    自動公衆送信というと、②サーバーから③クライアントコンピューターへの情報の送信ということがすぐに想起されます。

    加えて、クライアントコンピューターからサーバーへの情報のアップロードも重要です。この、アップロードをする端末を、①発信装置と呼びたいと思います。

    ②サーバーは著作権法上の用語に従って自動公衆送信装置、③クライアントコンピュータは、受信装置と呼びます。

    そうすると、①発信装置、②自動公衆送信装置、③受信装置という3つの端末が関連することになります。この3つの端末を意識することが重要と考えています。

    ①発信元クライアントコンピューター 発信装置 発信者(適法な発信者、違法な発信者)

    ②サーバー 自動公衆送信装置 (中継者 コンテンツプロバイダ)

    ③クライアントコンピューター 受信装置 受信者(ユーザー)

    ウェブサイトの仕組み

    まず発信装置でウェブサイトとして完成した状態が確認されます(①)。

    次に、サーバーにアップロードすることで、画像などのメディアファイル、CSSファイル、HTMLファイルなどウェブサイトは各ファイルに分解されて保存されます(②)。

    この、②サーバーで保存されたファイルが③受信装置に送信されます。この時、受信装置のハードディスクキャッシュ領域で各ファイル(サイトの構成要素)データ保存がされます。この場合、ハードディスクキャッシュ領域へのデータの保存なので端末の電源をオフにしても、データは失われません。しかし、キャッシュ領域への保存という点から、著作権法上複製に当たらないと考える見解が多数派と認識しています。

    次に、受信装置内部で生じる、③から④の過程で、各ファイルが統合演算処理を受けて、一つのウェブサイトへ組み立てられます。この時、ブラウザにはレンダリングデータが生成されておりメモリに生成されたレンダリングデータに従って、ブラウザにウェブサイトが表示されると理解しています。

    この、③から④で生じる統合演算処理の過程で、表現に生じる変化を著作権法上どのように評価していくか、これから議論が進んでいくべき部分であると考えております。

    今回のリツイート事件上告審も、③から④の部分で生じた変化により氏名表示権侵害が成立すると判断した判例だと考えています。

    参考

    https://www.html5rocks.com/ja/tutorials/internals/howbrowserswork/

    リツイート事件事案の概要

    開示を請求したアカウント

    アカウント1、2、3、4、5という5つのアカウントについて開示を請求しています。

    アカウント1とアカウント2、3、4、5という2つのグループに分かれます。アカウント1とアカウント2、3、4、5は全く関係がないアカウントです。

    たまたま同じ写真を無断使用したため、一つの訴訟の中で情報開示を請求しています。アカウント1は侵害写真をプロフィールに設定していました。

    アカウント2、3、4、5については、アカウント2が侵害写真をツイートとして元ツイートをしたアカウントです。

    アカウント3、4、5がアカウント2の元ツイートをリツイートしました。

    訴訟の時系列

    2009年6月9日 すずらん写真撮影(滝野すずらん丘陵公園に於いて)

    2009年6月19日 すずらん写真インターネット公開

    2014年12月中旬 アカウント2による無断元ツイート

    2014年12月中旬ころ アカウント3、4、5によるリツイート

    2014年12月26日 アカウント2による無断利用発見

    2015年1月26日 ツイッターに書面で通知(郵送先はツイッタージャパン)

    2015年2月13日 ツイッター側で画像削除

    2015年3月25日 情報開示を求めて原告が札幌地裁でツイッター提訴(札幌地裁)。この時、開示請求の対象には同一人物と考えられたリツイートアカウント3、4、5も含まれていた(しかし、後にアカウント3は別人の可能性が高いことが判明。)。

    2015年5月21日 Twitterジャパンより答弁書と移送申立書

    2015年6月12日 札幌地裁移送決定 審理は東京地裁に移送されるとともに、移送後東京地裁から米国ツイッターを運営するXcorp.へ訴状送達

    2015年10月21日 東京地裁から送達された訴状を受領したツイッターを運営するXcorp.(米国法人)より答弁書提出

    開示を請求している情報は何か?

    メールアドレス及び、IPアドレスとタイムスタンプです。IPアドレス及びタイムスタンプはツイッターが保有していないか最新ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプについては請求が棄却されるなどして、裁判所は開示を認めていません。

    裁判所が開示を認めたのは、一審東京地裁において、アカウント1、2のメールアドレスです。

    控訴審知的財産高等裁判所については、アカウント3、4、5のメールアドレスを加えた、アカウント1、2、3、4、5のメールアドレスの開示を認めています。

    そこで、アカウント3、4、5のメールアドレスの開示について開示すべきでないとして上告審で争われていました。

    これに対して上告審で最高裁判所は、アカウント3、4、5の開示を命じた控訴審判決を支持し、アカウント1、2、3、4、5のメールアドレスが開示されることになりました。

    リツイート者の情報開示を請求した経緯

    リツイート者であるアカウント3、4、5の情報開示を請求した元々の経緯は、大元の権利侵害者であるアカウント2と、アカウント3、4、5が同一人物だと考えていたからです。そこで、特定につながる情報は少しでも多い方が望ましいことから、同一人物の異なる手がかりが得られるかもしれないと考えて、アカウント3、4、5の開示を請求していました。

    しかし、被告ツイッターを運営するXcorp.から、アカウント2とアカウント3、4、5が同一人物とは言い切れない(ので、アカウント3、4、5の開示はできない)という反論がありました。

    この反論をされると、アカウント2、3、4、5がどこの誰かをこれから突き止めようとしている原告側としては如何ともしようがありません。そこで、止む無く、仮にアカウント3、4、5とアカウント2が別人であっても(同一人物と立証できなくても)、リツイートでも権利を侵害するため、開示を認めるべきと反論しました。

    また、さらに正確に言えば、アカウント2とアカウント3、4、5は同一人物だと想定していましたが、アカウント3、4、5のうちのアカウント3は、アカウント2と本当に別人である可能性が高いことが訴訟の中でわかりました。

    そこで、原告側でアカウント3の請求取り下げも検討しましたが、一審の早い段階でツイッタージャパンに対する請求の取下げを行ったところ、これに同意を得られなかった経緯もあり、結局、アカウント3に対する請求も取り下げないまま、訴訟は終了しました。

    もっとも、別人の可能性が高いアカウント3に対しては損害賠償請求を予定していません。

    上告審 

    主文 上告棄却

    リツイート事件上告審は、上告を棄却しました。

    理由 氏名表示権侵害

    上告審で最高裁判所が上告を棄却した理由は、各リツイートアカウントに氏名表示権侵害を認めたからです。

    実際のトリミングの再現イラスト

    トリミングの態様

    ↑上記図の氏名表示をトリミングにより表示しなかったことについて、氏名表示権侵害を認めました。

    ↑上記の様に氏名表示が隠れてしまった部分が著作者人格権を侵害するものと判断されました。

    上告審における最高裁判所判示の概要

    最高裁判所は、3つの点について判断を示しています。その、3つの点について、最高裁判所の判示部分を抜き出してご説明します。

    ①氏名表示権の侵害「著作物の公衆への提供若しくは提示」

     ①に対する最高裁の結論 

    最高裁判所は、著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用によることを要しないと結論づけています。

    ①に対する上告理由(上告理由3の2)

    ①に対して、「本件各リツイート者は,本件各リツイートによって,著作権侵害となる著作物の利用をしていないから,著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」をしていない」という上告理由が主張されていました。

    最高裁判示

    最高裁判所は、上記上告理由に対して、「同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である」と判示しました。

    ➁氏名表示権の侵害「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(同条2項)しているか

    ②に対する最高裁の結論

    最高裁判所は、SNSにおける他人の著作物である写真の画像を含む投稿により,同画像が,著作者名の表示が切除された形で同投稿に係るウェブページの閲覧者の端末に表示された場合に,当該表示画像をクリックすれば元の画像を見ることができるとしても,同投稿をした者が著作者名を表示したことにはならないと結論しました。

    ②に対する上告理由(上告理由3の2)

    ②について、「本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができることから,本件各リツイート者は,本件写真につき「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(同条2項)しているといえる」と上告理由が主張されていました。

    最高裁判示

    最高裁判所は、上記上告理由に対して、「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである」と判示しています。

    上記に対する理由

    最高裁判所は、以下の理由を述べています。

    「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。」

    「また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。」

    ➂侵害情報の発信者といえるか(リツイート者の侵害主体性)

    ③に対する最高裁の結論

    最高裁判所は、SNSにおける他人の著作物である写真を表示するHTMLを投稿した者が,プロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当し,「侵害情報の流通によって」氏名表示権を侵害したものと判断しました(※最高裁判所ウェブサイトに掲載されている判決要旨がミスリーディングなので、下線部を中心に修正しています。)。

    ③に対する上告理由(上告理由4) 

    ③について、「各リツイート者による本件リンク画像表示データの送信については,当該データの流通それ自体によって被上告人の権利が侵害されるものではないから,プロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたという要件を満たさず,また,本件各リツイート者は,被上告人の権利を直接侵害する情報である画像データについては,何ら特定電気通信設備の記録媒体への記録を行っていないから,同項の「侵害情報の発信者」の要件に該当しないなどとして,本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害について,上記の二つの要件が同時に充足されることはないのに,これらが充足されるとした原審の判断にはプロバイダ責任制限法の解釈適用の誤りがあるというものである」という上告理由が主張されました。

    最高裁判示

    上記の③の点について、最高裁判所は、「本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべきであって,本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,「侵害情報」である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる」と述べました。

    そして、「本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害について,本件各リツイート者は,プロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当し,かつ,同項1号の「侵害情報の流通によって」被上告人の権利を侵害したものというべきである」と判示しています。

    上告審戸倉裁判長補足意見※基本的に判決を補足するもの(ツイッターユーザーやツイッターを運営するXcorp.に対する要望を含む)

    ツイッターを運営するXcorp.に対する要望として、戸倉裁判長は、「リツイートにより侵害される可能性のある権利が著作者人格権という専門的な法律知識に関わるものであることなどを考慮すると,これを個々のツイッター利用者の意識の向上や個別の対応のみに委ねることは相当とはいえないと考えられる。著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される」と補足意見を述べています。

    上告審林景一裁判官反対意見※専ら侵害主体に関するもの(抜粋)

    あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。

    私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。

    ※少し話題になりましたが、林景一裁判官はツイッターユーザーであり、ユーザーとしての視点から反対意見を述べられバランスをとられたのかもしれません。

    反対意見結論 リツイートにおいて人格権を侵害したのはリツイート者ではない

    ただし、侵害主体については、ツイッターを運営するXcorp.か、元ツイート者かは明らかにされていないようです。

    林景一判事の反対意見理由

    林景一判事は下記のとおり、侵害主体はツイッターを運営するXcorp.ないし、元ツイート者のいずれかであると述べておられるように考えられます。

    ツイッターを運営するXcorp.の侵害主体性に関する部分

    本件改変及びこれによる本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人である。

    元ツイート社の侵害主体性に関する部分

    本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。

    わいせつ画像等と著作権侵害画像について

    さらに、林景一判事の反対意見は、「本件においては,元ツイート画像自体は,通常人には,これを拡散することが不適切であるとはみえないものであるから,一般のツイッター利用者の観点からは,わいせつ画像等とは趣を異にする問題であるといえる」と意見を述べられておられます。

    本判決の意義

    大きく分けて、以下の2点の意義があると考えています。

    ①著作権法19条に関する解釈

    最高裁判所は、氏名表示権侵害について「公衆への提供又は提示」が法定利用行為(支分権として定められた行為)に限られないことを明らかにしました。

    ➁インコーポレーションテストの採用

    そして、最高裁判所は、著作者人格権侵害については、インコーポレーションテスト(※画像ではなく、HTMLなどを発信した側に責任を認める考え方。)による場合があることを宣明したと考えています(私見)。このことが、本判決のもう一つの意義です。

    インラインリンクとは

    インラインリンクは、経済産業省において「ユーザーの操作を介するこ
    となく,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,自動的にリンク先の
    ウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に
    送信されて,リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示され
    るように設定されたリンクをいう」と定義するリンク態様です。

    マークアンドリーセン氏が1993年に考案し、モザイクというブラウザに実装しました。モザイクはインターネットエクスプローラーの前身となったブラウザです。

    http://1997.webhistory.org/www.lists/www-talk.1993q1/0182.html

    ただし、現在ではデータURLスキームにより「リンク」は必須ではないと考えられています。

    実際にデータURLスキームの場合にも、氏名表示権侵害は成立すると考えられ、今回の判決は厳密には、リンクに関する判事ではなく、③から④で生じる統合演算処理により著作者人格権侵害を肯定した判例と考えています(私見)。

    この論点を、「HTMLと著作権」という論点として整理しています。

    インラインリンク例

    dateURLscheme

    ソースを見ていただくとわかりますが、画像データがHTMLに直接挿入されているため、リンク通信は生じません。

    サーバーテストとインコーポレーションテスト

    そもそものサーバーテストとインコーポレーションテストについてご紹介します。

    サーバーテストとは

    端的にいうと、画像を表示しているのは、画像を発信した者という考え方です。

    サーバーテストは、パーフェクト10事件において示され、その後、米国第9巡回区控訴裁判所(court of appeals for the ninth circuit)における控訴審でも是認された考え方です。

    直接的には、インラインリンクが米国著作権法106条(5)の公の展示(=to display the copyrighted work publicly)に含まれるか、解釈が問題となりました。

    注釈

    「サッカーパッションコム」は、「画像の発信者」です。

    「サッカーマニアコム」は、「HTML(IMGタグなど)の発信者」です。つまり、最高裁判例でいう、「リンク画像表示データ」を意味していると理解しています。

    以下、Google社および、パーフェクト10社から主張されたお互いの主張をご紹介します。

    i. The Server Test Embraced by Google・Googleから主張されたサーバーテスト

    From a technological perspective, one could define “display” as the act of serving content over the web—i.e., physically sending ones and zeroes over the internet to the user’s browser.

    技術的な観点から見ると、「展示(ディスプレイ)」とは、展示対象(著作物)をウェブを通して提供する行為、つまり、物理的に0と1の状態のデータとしての著作物を、インターネットを介してユーザーのブラウザに送る行為と定義できます。

    Adopting this definition, as Google urges the Court to do, SoccerPASSION.com would be the entity that “displays” the Pelé image, and SoccerMANIA.com would not risk liability for direct infringement (regardless of whether its in-line linking would otherwise qualify as fair use).

    Googleが裁判所に主張するように、「展示(ディスプレイ)」する行為とはサーバーを介して物理的に著作物を提供する行為と定義されるべきです。この定義が採用されることによって「ペレ(サッカーの王様)の写真」をアップロードした「サッカーパッションコム(画像)」が「展示(ディスプレイ)」の主体となります。

    反対に「サッカーマニアコム(HTML)」が直接的な著作権侵害主体とされることはありません(他にもインラインリンクがフェアユースなど他の理由で適法となる可能性がありますがここではその話には触れません。)。

    インコーポレーションテストとは

    端的にいうと画像を表示しているのはHTMLなど(最高裁判所のいうリンク画像表示データ)を発信した者という考え方と理解しています。以下、事件の中のパーフェクト10の主張をご紹介します。

    ii. The Incorporation Test Embraced by P10

    From a purely visual perspective, one could define “display” as the mere act of incorporating content into a webpage that is then pulled up by the browser—e.g., the act by SoccerMANIA.com of using an in-line link in its webpage to direct the user’s browser to retrieve the Pelé image from SoccerPASSION.com’s server each time he navigates to SoccerMANIA.com.

    視覚的な面から考え、「展示(ディスプレイ)」する行為とは、単純にウェブページに著作物を組み込む行為と定義されるべきです。

    例えば、「サッカーマニアコム(HTML)」が、「サッカーパッションコム(画像)」がウェブにアップロードした「ペレの写真」を、「サッカーマニアコム(HTML)」のウェブサイトに組み込んだ行為は、「展示(ディスプレイ)」行為と言えます。

    P10 urges the Court to adopt this definition.

    パーフェクト10は、裁判所に単純に著作物をウェブページに組み込む行為を「展示(ディスプレイ)」行為と定義するように解釈することを求めます。

    Under it, SoccerMANIA.com, as the host of its own webpage which incorporates the Pelé photo from SoccerPASSION.com, would be the entity that “displays” that image.

    この考え方のもとでは、「サッカーパッションコム(画像)」がインターネット上にアップロードした「ペレの写真」を「サッカーマニアコム(HTML)」のウェブページに組み込んだ「サッカーマニアコム(HTML)」は、「ペレの写真」を「展示(ディスプレイ)」した行為主体となります。

    パーフェクト10事件の結論

    米国の裁判所は、サーバーテストを採用し、画像の発信者が画像の展示主体であると判断しました。

    日本でも、著作財産権についてはサーバーテスト(画像の発信者が侵害主体とする考え方)が妥当するという見解が根強い所と理解しています。

    最高裁の判断 氏名表示権侵害についてはインコーポレーションテストを採用(私見)

    本件リンク画像表示データとは

    最高裁判所は、「自動的に,上記リンクを指示する情報及びリンク先の画像の表示の仕方(大きさ,配置等)を指定する情報を記述したHTML(ウェブページの構造等を記述する言語)等のデータ(以下「本件リンク画像表示データ」という。)」と判示しています。このように、本判決においてリンク画像表示データとは、HTMLなどのマークアップ言語を意味していると理解されます。

    本件リンク画像表示データ送信者が権利侵害主体とされた最高裁判示部分

    最高裁判所は、以下のように述べて、「本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしている」としてインコーポレーションテストによる権利侵害を是認したと考えられます(私見)。

    「本件各リツイート者は,その主観的な認識いかんにかかわらず,本件各リツイートを行うことによって,前記第1の2(5)のような本件元画像ファイルへのリンク及びその画像表示の仕方の指定に係る本件リンク画像表示データを,特定電気通信設備である本件各ウェブページに係るサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信し,これにより,リンク先である本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから同端末に本件元画像のデータを送信させた上,同端末において上記指定に従って本件各表示画像をトリミングされた形で表示させ,本件氏名表示部分が表示されない状態をもたらし,本件氏名表示権を侵害したものである。」

    上記のように行われた本件リンク画像表示データの送信は,本件氏名表示権の侵害を直接的にもたらしているものというべきであって,本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,「侵害情報」である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる。

    著作者人格権侵害とインコーポレーションテスト

    著作者人格権侵害においてインコーポレーションテストという考え方を加味しなければならないのは必然とも考えられます。

    例1 モーダルウィンドウが開かないケース

    今回のケースでモーダルウィンドウが開かないようなケースに氏名表示権侵害を認めないことは難しいのではないかと思います。

    そして、インターネットにおいてはむしろそれが通常の状態です。

    そして、そうしたトリミングの態様を決定しているのはHTMLなどのリンク画像表示データの発信者です。そこで、氏名表示権侵害については、やはり、インコーポレーションテストの視点は避けられないと考えられます。

    なお、最高裁判所はモーダルウィンドウのことには言及せず別のウェブページと言っています。別のURLが表示されるため、このような表現をとったものと思われますが、実際に同じページでモーダルウィンドウが展開しているように考えられます。ただし、何をもってウェブページというかは、議論があるものと考えられます。

    例2 名誉声望保持権侵害のケース

    例えば、写真を卑猥なウェブサイトに埋め込み表示するような場合です。

    令和元年10月30日東京地方裁判所民事29部判決( 令和1(ワ)15601事件名 損害賠償(著作権等侵害)請求事件)などにおいて、ウェブサイトに写真を卑猥な画像とともに表示する場合、著作者人格権侵害とみなされます。

    やはり、これも仮にインラインリンクで表示された場合、HTML発信者側に侵害責任を見出すべきものと考えられます。

    同一性保持権について

    上告受理決定の際に、民事訴訟法318条3項により、「重要でない」として、排除されました。

    同一性保持権はさらに複雑な問題があります。例えば、令和元年12月24日東京地方裁判所民事46部判決(平成29(ワ)33550損害賠償等請求事件)では、より詳細な同一性保持権侵害に関する判示がされています。

    最新ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ

    最新ログイン時IPアドレスとタイムスタンプの開示はプロバイダ責任制限法上の重要論点としてリツイート事件のもう一つの重要課題でした。しかし、この点は棄却されています。

    現行プロ責法の条文上、最新ログイン時の情報の開示はかなり高いハードルです。

    省令7号の文言が限定的すぎることがその理由です。

    ※第四号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第五号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻

    そこで、現在、他の法律構成も検討しています。

    インラインリンクによる著作財産権侵害についての問題意識

    本当にサーバーテストで説明がつくのか。また、結論として妥当と言えるのか。疑問も多い部分です。特に、これからのウェブ表現の発展によって、サーバーテスト一択という視点はおそらく機能しなくなると考えられます。

    問題意識1

    ツイッターのサーバーに保存した画像をインラインリンクで表示しています。この場合に著作財産権侵害が生じないというのは、やはり問題ではないでしょうか。

    問題意識2

    静止画像にアニメーション的な表現は付加した場合、2次的著作物となるのでしょうか。

    https://www.apple.com/jp/airpods-pro/

    問題意識3

    https://cabanier.github.io/WebXRLayers-samples/tests/

    https://cabanier.github.io/WebXRLayers-samples/tests/cube-sea.html

    https://cabanier.github.io/WebXRLayers-samples/media/textures/cube-sea.png

    VRの時代に、本当にサーバーテストで妥当な結論を導けるのでしょうか?

    翻案権侵害について

    無形利用である翻案権侵害は、おそらく③➡④の過程で新たな創作的表現を付加することにより成立すると解されます。

    今後ますます多くの新しいウェブ表現が生まれると思われます。

    その場合の権利関係はどう評価すべきでしょうか。

    さらに、翻案行為とまで評価できない場合の処理はどのように考えるべきでしょうか。

    包含著作物と、非包含著作物の関係は?ウェブサイトと、個々のメディア(著作物)の関係は?

    これから議論が深まることに期待したいです。

    実務論文のご紹介

    インラインリンクと著作権法上の論点

    東京弁護士会 法律実務研究163頁(PDF165ページ)

    https://www.toben.or.jp/message/pdf/houritsujitsumukenkyu_35.pdf

    <
    TOP