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リツイート事件について、最判後、多くの評釈や研究会で事件の振り返りがされています。

下記リンク先では、リツイート事件後の反響を受けて有用な情報や議論状況の一部をまとめています。

ここでは、リツイート事件後の議論で気になったものを取り上げています。

公衆送信権侵害について

田村教授の評釈で、インラインリンクにおける公衆送信権の幇助侵害にとどまらず、公衆送信権の直接侵害を肯定し得ることまでが示唆されている見解が示されました。

さらに注釈内でも、最高裁判所が公衆送信権侵害を直接に否定したとは言い難い点が指摘されています。

最高裁判所では判断こそされませんでしたが、リツイート事件をとおして問われてきたのは、インラインリンクによる著作財産権の侵害の成否であり、この点にリツイート事件後においてもなお、肯定的な見解が出されたことは今後の実務に与える影響も大きいでしょう。

私見ながら、実際、インラインリンクは著作財産権侵害を導かないという見解も見られますが、リツイート事件については、田村教授のご指摘とはまた別の観点からも、インラインリンクと著作財産権侵害の問題についてはなんら答えは出されていないと考えています。

同一性保持権侵害や公衆送信権侵害についての最高裁判所の立場

なお、最高裁判所が同一性保持権侵害や、公衆送信権侵害をどう捉えていたか、ということですが最高裁判所は同一性保持権侵害や公衆送信権侵害(幇助侵害を含む)については何も示していないと考えています。

あえて、氏名表示権しか判断しなかったのは明らかな判断回避であり、判断回避の姿勢をとった以上、あえて他の論点に言及する言辞を示す必要性が無いからです※。

※この点は、同一性保持権について調査官からも同様の見解が示されています。

幇助侵害と侵害情報の流通について

リンクによる著作権の幇助侵害はペンギンパレード事件でも認められていますが、改めてその肯定可能性を示す見解が上記①の田村教授の評釈により示されました。

そして、同じ評釈の中でも端的に指摘されているとおり、幇助侵害は、差し止めの対象とならないという他にも、仮に不法行為となったとしても、発信者情報開示に至るにはプロバイダ責任制限法上の障壁があります。

すなわち、著作権、著作者人格権の幇助侵害については、発信者情報の開示には侵害を構成する情報そのものの流通が必要であるところ、幇助を基礎づける情報の流通は「侵害情報」そのものの流通とは評価できず、発信者情報開示は認められないというかなり有力な反論があります。

リツイート事件ではこの反論が強かったため、仮に著作権法上幇助侵害が認められても、そのうえでプロバイダ責任制限法の要件をさらに満たしていると判断されたうえで、発信者情報開示が認められるのはかなり難しい状況でした。

そこで、リツイート事件においては幇助侵害の主張にはあまり力を入れず著作財産権、著作者人格権の直接侵害を強く主張していました。

これに対して、上記のプロバイダ責任制限法上の侵害情報に関する反論がリツイート事件ほど強くなかっため幇助を含む共同不法行為の主張に力を入れた書面を作成したのがペンギンパレード事件です。

なお、下記のとおり弊所ではペンギンパレード事件についても書面の提供という形で寄与させていただいております。

訴訟自体は原告が本人で追行されたため、弊所が提供した書面の影響は明らかではないものの、結果的に、リツイート事件では幇助侵害を含む公衆送信権侵害は否定されましたが、ペンギンパレード事件では幇助侵害が肯定されました。さらにペンギンパレード事件では、幇助侵害に基づいて発信者情報開示も認められています。

しかし、リツイート事件のようにプロ責法上の反論が激しくされた場合、幇助侵害では開示に至らないという結論も十分考えられるほど、侵害情報の流通が存在しないという反論は強いものだと考えています。

この点は、幇助侵害に基づいても侵害情報の流通を肯定すべきであり、また、今回のリツイート事件最高裁判決判示事項3は、その解釈を後押しし得ると考えています。

幇助侵害成立の理論構成

公衆送信権侵害の幇助侵害の成立は、送信可能化行為を単独行為と捉えるとともに、公衆送信行為を受信者の受信行為(求送信行為)によって初めて成立する対向行為と捉えて、公衆送信行為の不可欠の行為の片方である受信行為(求送信行為)を助長する点に幇助性を見出すのが自説です。

なお、受信行為(求送信行為)が適法なのは、刑法的には片面的対向犯とされているからと捉え、片面的対向犯に対する幇助は一般的に違法とされている点からも、リンクに違法性を見出し得ると考えます。

もっとも、対向行為の片方ともう片方にタイムラグがあるというのは、これまでに例の多くない事象であり、対向行為という理解が妥当するかを含めて公衆送信行為の捉え方は今後の議論が重要なところだと思います。

例えば、著作権法で言うと譲渡権は譲渡行為と譲受行為が必要な対向行為と捉えたとき、自動販売機で著作物を販売するような場合に状況としては似ているのではないかと思います。この場合、譲渡権侵害を肯定できるのは、自動販売機で購入行為があった時点であり、しかし、それでは権利侵害の立証が難しい為、その前提の自動販売機への著作物の充填行為に該当する行為を特に送信可能化として権利の対象としているのが公衆送信権だと理解する考え方です※。

このように、位置づけとしては近い譲渡行為と公衆送信行為を並列的に理解できるのも自説の利点です。

※もちろん自動販売機での著作物の販売は例外的な事象なので譲渡権については、充填行為などを特に規律する権利は設定されていません。ただし、情を知っている場合の頒布のための所持や頒布の申出を侵害とみなすと定める著作権法113条1項はあります。自動販売機の設例では主観要件を満たせば、充填以前の所持の時点で侵害となります。

発信者情報開示請求訴訟という特殊性について

著作権侵害に伴う発信者情報開示請求訴訟の特殊性に着目する議論もされました。つまり発信者情報開示を予選とし、損害賠償請求訴訟を決選としニュアンスとしては発信者情報開示については侵害論で開示請求側に有利な結論が出ているという指摘です。

この指摘は、学会から複数指摘されている部分と考えています。

インターネット上の著作権侵害訴訟において発信者情報開示請求訴訟も損害賠償請求訴訟も相当数担当していますが、侵害論にそれほど判断の差があるかというと私は若干疑問というのが率直な感想です。

確かに、損害論のあるなしの差は大きいです。著作権侵害訴訟ではここが肝であるとも言えるため、損害論があるという意味では確かに予選本選という区分けは意味がありそうですが、侵害論の判断にそれほど差はないと個人的には感じています。

インターネット上の著作権侵害に伴う発信者情報開示請求訴訟の実際

インターネット上の著作権侵害に伴う発信者情報開示請求訴訟は、プロバイダ側が形式的にしか争わない事件と形式的にも実質的にも争う事件があり、全くの個人的感想ですが、前者と後者は刑事事件でいう認め事件と否認事件くらい差があります。

また、インターネット上の著作権侵害に伴う事件においては損害賠償請求訴訟の段階でもいろいろと問題があり、必ずしも十分充実した審理があるかというと現状はそうではなく、世界的なIT企業がふんだんに費用をかけて国内最高峰の弁護士が代理することもある発信者情報開示請求訴訟の方が、充実した審理が行われる例もあります。

特に、損害額が低額にとどまるインターネット上の著作権侵害訴訟において損害賠償請求訴訟は和解に落着しやすいと感じています。

賠償額が高くないインターネット上の著作権侵害訴訟では、損害賠償請求訴訟は、残念ながらそれほど充実した審理になっていない例も散見されるようです。

最高裁判所の技術的な理解について

リツイート事件の判決はウェブサイトやブラウザの仕組みに相当詳しくないと書けないと考えています。ブラウザの仕組みについて非常に理解した状態で判決が書かれているのではないかと私は思っています。

その証左として、要旨が挙げられます。ブラウザの仕組みについて深い理解がないとあのような要旨は書けないのではないかと個人的には考えています。

インラインリンクの分解的考察

インラインリンクについては、情報の送受信のフェーズと、受信された情報のクライアントコンピュータにおける統合のフェーズを分離して考察すべきと考えています。

上記の図でいう、②から④の過程が、他人型インラインリンクの過程となります。このうち、②から③と、③から④を分解的に考察することが非常に重要だと考えています。

そこで、インラインリンクは上記両フェーズを含んだ総体的な事象(つまり②から④までの過程)と理解し、送受信のフェーズ(②から③)を『オートマティック(自動)リンク』(欧州最高裁法務官意見より言葉をいただきましたが、意味は必ずしも同一ではありません。)と、情報の統合と表示(③から④)を『インコーポレーション』(グーグルVSパーフェクト10事件より)(或いは『エンべディング』(欧州最高裁法務官意見より))と呼称して、分析的な視点を持つべきと考えています。

『オートマティックリンク』は、まさに(ハイパー)リンクの延長で語られるべきものです。つまり、クリックにより通信が開始される(ハイパー)リンクと異なり、自動で通信が開始されるオートマティックリンクは、より、公衆送信への寄与度が高いのではないかとという文脈で公衆送信権侵害との関係が考察されるべきものです※。

※また、『オートマティックリンク』は、データURLスキームなど代替手段が存在しています。データURLスキームなどの技術で『オートマティックリンク』が代替された時、インラインリンクと呼ぶべきかどうかはよくわかりません。

これに対して、インコーポレーション(エンべディング)はリンクとは全く性質の異なる現象であり、受信装置で行われる『無形の表現行為』とさえ評価し得る事象です。このインコーポレーションは、翻案行為該当性さえ否定し難いインターネット時代の新たな『表現の在り方』であり、その著作権法的な評価の議論は急務と考えられます。

公衆送信権の直接あるいは間接の侵害が問題となるのは『オートマティックリンク』のフェーズであり、氏名表示権や同一性保持権、さらに公衆伝達権の成否が問題となるのは『インコーポレーション』のフェーズです。

実務論文のご紹介

オートマティックリンクとインコーポレーションに分解して著作権法上の各論点に言及する実務論文として下記があります。ただし、論文内ではオートマティックリンクと、インコーポレーションという言葉は出てきません。ただ、インコーポレーションという受信装置におけるデータ統合を分解的に考察すべきという視点は、盛り込まれています。興味のある方はご笑覧ください。

侵害主体をツイッターとすべきとの議論について

侵害主体性をツイッターに見出すべきという主張が多く見られます。この点は、強く反論するという意味ではありませんが、疑問も色々持っているのが実際です。

この点については、CSSをツイッターがサーバーにアップロードしたのが、人格権侵害より前の時点だという問題があります。すなわち、ツイッターからすれば、CSSのアップロード後に起こる事後的な事象が侵害となるため、ここに侵害主体性を見出し得るのかという問題があろうかと考えられます。

例えば、ツイッターはハサミを置いておいただけであり、後からハサミを見つけたユーザーが写真を切り取ったという時、ハサミを用意して置いておいたというだけでツイッターの侵害主体性を肯定できるのか、疑問もあります。

つまり、ツイッターは侵害の対象となった著作物の存在さえ知らないのに、当該著作物の侵害主体足り得るのか、という問題です。

加えて、プロバイダは現在プロバイダ責任制限法により、ノーティスアンドテイクダウンを守っている限り免責されます。

つまり、この点はプロバイダ責任制限法も、プロバイダは知らない限りは責任を免責されるという態度をとっており、システムを作ったとしても、そのシステム上で何が起こっているか全ては把握できないという前提を取っている現在の法制度で、ツイッターが侵害主体と評価できるかは疑問があります。

あくまで権利侵害主体はユーザーであり、プロバイダが責任を負うのは、権利侵害を把握した後、というのが、現在の法制度の採用しているシステムではないかと考えられます。

加えてツイッターを侵害主体と評価できても結局免責されることから、ツイッター側からの反論はもちろん、権利者サイドからもツイッターの権利侵害を主張する実益はないということになります。また、仮にツイッターを権利侵害主体としたとき、権利者は救済を受けられないということになります。

この点は、継続して議論が必要な部分ではないかと考えられます。

ツイッター上での権利侵害は弁護士齋藤理央にご相談ください

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