インターネットサービスや、コンテンツ配信に際して利用規約が必須です。この利用規約は法的には定型約款(民法第五百四十八条の二)に該当するケースが多いものと考えられます。
普通取引約款
約款とは、普通取引約款などとも呼ばれ、利用規約や営業規則などと表現されることもあります。約款はいわば、契約の内容の一部であり、特定の事業者がすべての契約に含まれる内容を特に書き出したものであると考えられます。では、このような約款について、法的に効力は認められるのでしょうか。
この点について、わが国ではかつて、法的効力を当事者の合意を介して認める(つまり契約の一内容として法的効力を認める。)アプローチをとっており、また、約款が存在することによって、当事者双方が約款に拠らない意思を表示していない限り、約款を内容とする契約が成立しているものと推定され、推定が覆らない限り契約として法的拘束力をもつと考えられていました。
約款について、大正4年12月24日大審院判決は、「当事者双方が特に特に普通保険約款に依らざるの意思を表示せずして契約したるときは反証なき限りその約款に拠るの意思をもって契約したるものと推定すべき」、と判示しています。
推定される、というのは、当該約款の内容に合意していることが推定される、ということを意味し、上記判例も述べている通り、当事者の双方乃至一方が合意していないことが反証されることをもって、推定は覆ることになります(但し、約款に合意していないことの立証というのは、難しいケースも多いものと考えられます。)。
このように、約款は存在それ自体がダイレクトに法的拘束力を持つわけではないですが、約款の効力を否定する当事者が、約款に合意していない点の立証に成功しない限り、結果的に法的効力を当事者に及ぼすと考えられていました。
約款に関する民法改正
約款に関して令和2年の民法改正において、約款に関する基本的なルールについて明文化(民法の条文に組み込み)されています。
定型約款の合意
定型約款(利用規約など)においては、当事者双方が契約内容とすることを合意した場合はもちろん、定型約款を準備した事業者が契約の内容とすることを表示していた場合も双方に合意が成立したものとみなされます(民法第五百四十八条の二 1項)。特に後者は双方の合意により成立することが原則である契約について、かなり強い修正と評価できます。そこで、相手の利益を一方的に害する条項については、例外的に合意がなかったものとみなされます(民法第五百四十八条の二 2項)。
定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
民法第五百四十八条の二 (第3編 第2章 第1節 第五款 定型約款)
定型約款の内容の表示
定型約款準備者は、定型約款の内容を示す義務があり、この義務に反した場合、合意について、成立したとみなされなくなります。電磁的記録による提供も内容の表示方法として認められていますので、利用規約などの約款は通常の場合、ウェブサイトなどに掲載しておくことが望ましいでしょう。
定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
民法民法第五百四十八条の三(第3編 第2章 第1節 第五款 定型約款)
定型約款の変更
利用規約などの定型約款について、一定の要件のもと、内容の変更を認めています。
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
民法第五百四十八条の四(第3編 第2章 第1節 第五款 定型約款)
事業者など契約の相手方に約款が存在するとき、或いは自社の側に約款が存在するときは、当該約款の内容も契約の内容に含めて、当事者同士で契約を締結したものとみなされます。約款の効力が当事者を拘束することになるわけですから、利用規約など約款の作成や内容の確認は、契約において重要な意味を持ちます。
コンテンツを配信する際の利用規約なども、約款として当事者を拘束するケースが多いものと考えられます。
弊所では、コンテンツの利用規約をはじめとした約款の作成や内容の確認もお受けしておりますので、まずはお気軽にご相談、お問い合わせください。