iT、コンテンツ、情報やエンターテイメント分野において生じる法的課題解決を重視しています

令和 4年 3月 9日東京高裁判決(令3(ネ)4346号)・ウェストロー掲載は、いわゆる掲示板の荒らし行為に対して掲示板の管理人による発信者情報開示請求が認められた事案です。開示請求を全て棄却した原審東京地裁令和3年9月15日判決の逆転開示認容判決となりました。

事案の概要

本件事案は、ネット掲示板の管理人が,発信者による各投稿によって掲示板の管理業務を妨害されたとして,掲示板に書き込みを行った発信者についてその投稿を媒介したインターネット接続プロバイダに対して保有する発信者の氏名,住所等の開示を求めた事案です。

争点

本件で争点となったのは、掲示板に対する本件荒らし行為が、管理人の権利を侵害するか、という点と、荒らし投稿行為が、侵害情報の流通によって権利を侵害したといえるか、という2点でした。

高等裁判所は、両方の論点について管理人の主張を認めました。つまり、本件について侵害情報の流通による権利の侵害であると認め、発信者情報の開示を認めています。

この点について原審(東京地裁令和3年9月15日判決)は、権利の侵害についても、侵害情報の流通性の点も否定して請求を全て棄却していました。このように、本件は、控訴審での逆転開示認容判決となりました。

荒らし行為による権利の侵害について

本件投稿は、「一応本件各スレッドの話題と共通する内容を含むもの」で、「直ちにいわゆるスパム投稿であると判別できるものではなかった」ものの投稿に含まれるリンク先の「記事は,本件各スレッドにおける議論と何ら脈絡のないニュース記事であるから」、リンク先に飛んで初めてユーザーは、「上記各投稿が本件掲示板の議論と無関係であると認識することになる」というものでした。発信者はこれを大量に投稿しました。

この点について本件東京高裁は、「本件各スレッドは,いずれも2日又は数日程度で制限投稿数の1000件に達するものが多かったところ(上記ア(カ),弁論の全趣旨),そうした活発な投稿がされている状況において,同一内容の投稿を短期間に大量に繰り返し投稿し,併せて投稿記事のリンク先に,当該スレッドで行われている議論の状況と関係のないサイトの記事をリンクさせることは,当該スレッドでの投稿とそれに対する応答の進行を意図的に妨害するものであって,本件各スレッドの閲覧者に,当該スレッド上での議論に嫌がらせが加えられていると感じさせ,不快感を抱かせるのみならず,当該スレッドでの議論自体の信用性に疑問を生じさせて,当該スレッドを含む掲示板自体の利用をためらわせるおそれを生じさせ,これによって,掲示板の管理者による管理業務を妨害する違法行為となるというべきである。」と述べて、荒らし行為による権利の侵害を認めています。

侵害情報の流通性

東京高等裁判所は、「法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって」とは,特定電気通信による情報の流通によって発信者情報の開示を請求する者の権利を侵害したとする情報の流通によってと解されることになり,文理によっても,情報それ自体が発信者情報の開示を請求する者の権利を侵害するものであることを要すると解さねばならない理由はない。 」と述べて、侵害情報の流通による権利侵害性を肯定しています。

この論点は、発信者情報開示が認められる要件として、投稿内容自体によって直接権利が侵害される必要があるのか、投稿の流通によって結果的に権利侵害が生じた場合を含むか、という点を対立点として議論がある論点です。

つまり、本件投稿行為は、一つ一つの投稿内容に例えば名誉毀損的言辞が含まれるような投稿自体によって直接的に権利を侵害する投稿ではなく、無関係のリンク記事に誘導する投稿を大量に投稿するなどして投稿行為によって間接的に掲示板の管理業務に支障を生じさせるというものでした。

本件では、このような投稿内容自体ではなく、投稿行為の性質(大量の投稿、スレッドと関係ない記事へのリンク誘導)から掲示板管理人の管理権を侵害する行為についても、侵害情報の流通による権利侵害性が肯定されたことになります。

TOP