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保釈取消決定、保釈保証金没収決定

 刑事訴訟法96条
1項
裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。

1号  被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
2号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3号 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
4号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
5号 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。

2項  保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。

3項
保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

上記のように、保釈取消事由がある場合、裁判所は裁量により保釈を取り消すことが出来ます。

この場合、さらに保釈金の一部を没収することが出来ます(裁量的没収)。

但し、保釈された者が、判決が確定した後、呼び出しを受けて正当な理由なく出頭しないときは、保釈保証金の一部または全部を必ず没収しなければなりません(必要的没収)。

保釈取消、保釈保証金没収に対する不服申し立て

保釈の取消決定、保釈保証金没収の決定に対しては、抗告を申し立てることが出来ます(刑事訴訟法420条2項、同法419条本文)。抗告は、実益がある場合は、何時でもこれをすることが出来ます(刑事訴訟法421条)。抗告審は高等裁判所が裁判権を有します(裁判所法16条2号)ので、地方裁判所の保釈取消、保釈保証金没収決定に対しても、簡易裁判所の保釈取消、保釈保証金没収決定に対しても高等裁判所が担当します。
地方裁判所乃至簡易裁判所がした保釈取消決定、保釈保証金没収決定に対しては高等裁判所に抗告を申し立てることが出来ます。もっとも、申立書は、原裁判所たる地方裁判所ないしは簡易裁判所に提出します(刑事訴訟法423条1項)。高等裁判所のした抗告棄却決定に対しては、抗告が出来ない(刑事訴訟法428条1項)うえ、その高等裁判所に対して異議申し立てをすることも出来ません(刑事訴訟法427条、428条1項)。しかし、最高裁判所に5日以内に特別抗告を申し立てることが出来ます(刑事訴訟法433条1項)。

参考判例
昭和43年 6月12日最高裁大法廷決定(昭42(し)7号 保釈保証金没収決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)

記録を調査すると、被告人は、同人に対する詐欺被告事件および有価証券偽造、同行使被告事件につき、昭和三九年六月二四日東京高等裁判所の保釈許可決定により釈放されたこと、その保釈保証金額は、右詐欺被告事件につき四五万円(うち一五万円は保証書をもつて代える)、右有価証券偽造、同行使被告事件につき一五万円(うち五万円は保証書をもつて代える)であつたが、同人の弁護人は、右保証金額中に含まれている二通の保証書(額面合計二〇万円)を差し出し、かつ、現金のうち二五万円を納付したものであること、被告人は、前記各被告事件について、昭和三九年六月一〇日東京高等裁判所において懲役三年に処せられ、右判決は同四一年五月二六日確定したが、同人はその後所在不明となつたため、同年一二月一二日東京地方裁判所は、検察官の請求により、前記保釈保証金全部を没取する旨の決定をしたこと、右決定に対し弁護人から抗告の申立がなされたが、原決定は、同人は右保釈保証金没取決定に関しては、刑訴法三五一条にいう被告人でないことはもちろん、同三五二条にいう被告人以外の者で決定を受けたものにも該当せず、また、右保釈保証金没取決定を受けた者である被告人から右抗告につき委任を受けた形跡も存しないとの理由により、右抗告を不適法として棄却したものであることが明らかである。
しかし、被告人以外の者が保釈保証金もしくはこれに代わる有価証券を納付し、または保証書を差し出すのは、直接に国に対してするのであり、それによつてその者と国との間に直接の法律関係が生ずるのであつて、その還付もまた国とその者との間で行なわれるのである。してみれば、この場合の保釈保証金を没取する決定は、その者の国に対する保釈保証金もしくはこれに代わる有価証券の還付請求権を消滅させ、またはその者に対して保証書に記載された保証金額を国庫に納付することを命ずることを内容とする裁判だといわなければならないから、その者はまさしく刑訴法三五二条にいう「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に該当し、その者も没取決定に対し不服の申立(抗告)をすることができると解するのが相当である。これと異なり、このような者は、みずから不服の申立をすることができないとした当裁判所の判例(昭和三一年(し)第二五号同年八月二二日第二小法廷決定、刑集一〇巻八号一二七三頁、昭和三三年(し)第八四号同三四年二月一三日第二小法廷決定、刑集一三巻二号一五三頁)は、これを変更すべきものと認める。
したがつて、弁護人の前記抗告を不適法として棄却した原決定は、刑訴法三五二条の解釈を誤つた違法があり、これを取り消さなければいちじるしく正義に反するといわなければならない。
所論は、憲法三一条、二九条違反、判例違反を主張するが、原決定が、前記のとおり、法令解釈の点において取り消されるべきものである以上、その誤つた法令解釈を前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠くにいたり、また、保釈保証金没取決定に対し、事後に不服申立の途が認められれば、予め告知、弁解、防禦の機会が与えられていないからといつて、所論のように原決定が違憲とは認められず、所論引用の判例は、本件に適切でない。
以上の理由により、原決定を取り消し、更に本件抗告の当否にき審理させるため、本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。
よつて、刑訴法四三四条、四二六条二項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

 

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