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令和2年1月29日東京地方裁判所民事40部判決(平成30年(ワ)第30795号 著作権侵害差止等請求事件)は、「原告らが,被告…が制作した別紙被告作品目録記載の「Prism Chandelier」(以下「被告作品」という。)は,原告らが制作した著作物である別紙原告作品目録記載の照明用シェード(以下「原告作品」という。)を改変したものであるから,被告らが被告作品を制作,販売,貸与又は展示する行為は原告らの翻案権及び同一性保持権を侵害すると主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告らに対し,被告作品の制作,販売,貸与及び展示の差止めを求めるとともに,被告…による上記翻案権侵害及び同一性保持権侵害により,原告らは財産的損害及び精神的損害を被ったと主張して,民法709条(財産的損害につき同条及び著作権法114条1項)に基づき,被告…に対し,550万円(財産的損害330万円,精神的損害220万円)及びこれに対する…遅延損害金の支払を求め,併せて,著作権法115条に基づき,名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求める事案で」す。

応用美術の著作物性、そして、応用美術の類否について、本質的特徴の点から詳細な検討が加えられている点で重要な判例と考えられます。

被告意匠

被告意匠は、意匠登録されています(意匠登録番号1574099)。意匠に図面も添付されており、被告商品の形状を把握するのに役立ちます。

また、意匠無効審判が申し立てられており特許庁の公知意匠との詳細な類否判断がされています。審判については一部証拠も公開されており、原告作品や被告作品の形状を把握するうえで参考になります。審判は結果的に公知意匠との類似性を否定して、無効理由はないと結論付けられています。

争点

本件で審理された争点は、①原告照明用シェードの著作物性及び、②翻案権(及び同一性保持権)侵害の成否です。

すなわち、最近の知的財産権訴訟の傾向に則り、裁判所は非侵害の心証の元、損害論の攻防に踏み切らずに1年程度の審理期間で結審した様です。その証左として争点における被告の損害論における主張は「争う」だけであり、詳細な損害論の攻防に立ち入っていないことが窺えます。

原告照明用シェードの著作物性

裁判所は、下記の通り判示して照明用シェードの著作物性を認めました。

「原告作品は,照明用シェードであり,実用目的に供される美的創作物(いわゆる応用美術)であるところ,被告らはその著作物性を争うが,同作品は後記2(2)記載のとおり,内部に光源を設置したフレームの複数の孔にミウラ折りの要素を取り入れて折ったエレメントの脚部を挿入し,その花弁状の頭部が立体的に重なり合うように外部に表れてフレームを覆うことにより,主軸の先端から多数の花柄が散出して,放射状に拡がって咲く様子を人工物で表現しようとしたものであり,頭部の花弁状部が重なり合うことなどにより,複雑な陰影を作り出し,看者に本物の植物と同様の自然で美しいフォルムを感得させるものである。このように,原告作品は,美術工芸品に匹敵する高い創作性を有し,その全体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものであって,美術の著作物に該当するものというべきである」。

翻案権侵害(さらに同一性保持権侵害)の成否

裁判所の規範

裁判所は、「著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。本件では,依拠性には争いがないことから,被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかについて検討する」と述べています。すなわち、江差追分事件の最高裁判断基準を本件にも適用するという判断を述べています。

原告照明用シェードの本質的特徴

裁判所は、原告主張のうち、脚部は看者に見えないとして、「エレメントの頭部同士が立体的に重なることにより,本物の植物が見せるのと同様の自然で美しい輪郭を有していること」,「エレメントにミウラ折りの要素を取り入れつつ,それに独自の工夫を加えていること」「脚部と花弁状部が光源の放つ光に対して二重の変化を与えることにより,極めて複雑な陰影の表情が発露されること」が結局本質的特徴であるとしています。すなわち、裁判所は、原告シェードの「本質的特徴は,エレメントが球状体の中心から放射状に外を向いて開花しているかのような形状をしており,花弁同士が重なり合うなどして複雑で豊かな陰影を形成するとともに,その輪郭が散形花序のようにボール状の丸みを帯びた輪郭を形成していることにあるというべきである」とまとめています(判決書25頁)。

裁判所認定の原告作品と被告作品の共通点

(ア) 全体の構成

A 作品がフレームとエレメント複数個から構成されている。

(イ) フレームの構成,形状等

B フレームの内部には光源が設置される。

C フレームは,棒状部とリング状部とからなる丸みを帯びたものであ
り,その外表面を覆うように,リング状部位を形成する複数の円形孔
が設けられている。
D フレームの複数の孔は,均等に配置されている。
E フレームの孔には,全て同一形状のエレメントが挿入され,放射線5状に光源の外を向くように配置される。

(ウ) エレメントの構成,形状等

F エレメントは,シート状の素材を折るという手法を用いて形成され
ており,脚部と脚基部から放射線状に伸びる花弁状の頭部とから構成
される。
G エレメントを構成する両刃部又は花弁の中央縦方向に折り線が設け
られているほか,複数の斜め方向の折り線が設けられている。
H エレメントをフレームの孔に挿入すると,エレメントの脚部におい
てエレメントの挿入が留まり,エレメント頭部がフレームの外側に表
れる。

(エ) 輪郭

I 均等に配置されたフレームの孔に同一形状のエレメントを挿入することにより,均等なエレメント頭部の立体的な重なりが表れる。

共通点に対する裁判所の判断

裁判所は、以上に列挙したどちらかというと構成や工法に関わる共通点について、「以上を踏まえ,原告作品と被告作品の共通点A~Iについてみると,共通点Aは作品全体の構成であり,共通点B~Eはフレームの構成,形状等に関する共通点であり,いずれも,看者の目に入らず,その注意を惹かない部分であって,原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではない。また,共通点Fは,エレメントが脚部頭部から構成されるとの基本的な構成において共通することを意味するにすぎず,共通点Gについては,後記のとおり,これをもって被告作品にミウラ折りの要素が取り入れられているということはできない。共通点Hも,エレメントをフレームの孔に挿入すると,エレメントの脚部においてエレメントの挿入が止まるということはその機能上当然のことということができる。さらに,共通点Iについては,フレームの表面上において,エレメント頭部が重なり合う点で共通するにとどまり,原告作品の輪郭に関する特徴を被告作品が有するものではない」と述べて、本質的特徴に関わる共通点ではないと評価しました。

そのうえで、「以上のとおり,共通点A~Iは,いずれも原告作品の本質的特徴を基礎付けるものではなく,これらの共通点から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできない」と結論づけています。共通点から本質的特徴を感得できないのであれば、ここで話は決まったとも言えます。

裁判所認定の原告作品と被告作品の相違点

(ア) フレームの構成,形状等

A 原告作品は,フレームのリング状部の数は21個であり,リング状部には,それぞれ1個のエレメントが挿入されているのに対し,被告作品のフレームにはリング状部が多数あり,そのうち41個のリング状部に,それぞれ1個のエレメントが挿入されている。

(イ) エレメントの構成,形状等

B シートの素材

原告エレメントには,乳白ポリエステルシートが用いられているのに対し,被告エレメントには,プリズムシートが用いられている。

C エレメントを構成する部分の数
原告エレメントは,1つのエレメントから構成されるのに対し,被告エレメントは,大エレメントと小エレメントを組み合わせることにより1つのエレメントが形成される。

D エレメント全体の構成,形状
原告エレメントは,大きな剣先状の6個の花弁,その内側に配置された12個の頂点を有する大きな星形状の花弁,更にその内側に配置された12個の頂点を有する小さな星形状の花弁から形成される。これに対し,被告作品の大エレメントは,大きな6個の大両刃部と小さな3個の小両刃部から形成され,小エレメントは,小さな3個の両刃部から構成される。そして,大エレメントの小両刃部は大両刃部の間に配置され,小エレメントの両刃部は,大エレメントの互いに隣り合わない3個の小両刃部に対応する位置に配置される。

E 花弁又は両刃部に設けられた折り線
原告エレメントの各花弁に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は平行であり,この斜め方向の折り線が等間隔のジグザグ線を構成しているのに対し,被告エレメントの両刃部に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は,傾斜角度が異なり,等間隔のジグザグ線を構成していない。

F 花弁又は両刃部の形状
原告エレメントは,平面視において,大きな剣先状の花弁,大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁が,いずれも四角形で構成される。

これに対し,被告作品の大エレメントの大両刃部の上端となる面及び付け根部分,大エレメントの小両刃部の付け根部分,及び,小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は,三角形で構成され,大エレメントの小両刃部の上端となる面,小エレメントの両刃部の上端となる面及び小エレメントの両刃部の付け根部分の一部は四角形で構成される。

G 花弁又は両刃部が伸びる方向
エレメントの側面視において,原告エレメントは,大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が,水平方向を基準に,中心から上斜め方向に伸びた後,水平な角度となるのに対し,被告エレメントは,大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端となる面が,水平方向を基準に上斜め方向に真っ直ぐ伸び,大エレメントの小両刃部の上端となる面が,水平方向を基準に下斜め方向に真っ直ぐ伸びている。

H エレメントの脚部
原告エレメントの脚部は,上部から下部に向けて徐々に外側に広がった形状が形成され,リング状部にエレメントの脚部のほぼ全長が挿入され,エレメントの頭部の下端(脚基部)でエレメントが留められているのに対し,被告エレメントの脚部は,中央部近傍に外周径が最も小さくなるくびれが形成され,リング状部にその脚部を挿入すると,くびれのやや上部でエレメントが留められている。

(ウ) 輪郭

I 原告作品は,フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり,花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた表面形状となっているのに対し,被告作品は,両刃部の先端がフレームの表面から離間する方向又はフレーム表面に向かう方向に鋭く突き出しており,凹凸があって刺々しい表面形状となっている。

相違点に対する裁判所の判断

上記の相違点を元に、裁判所は、「以上のとおり,原告作品と被告作品とは,原告作品の本質的特徴を実現するために重要な構成,形状において相違しており,被告作品は,自然界に存在する花のような柔らかく陰影に富んだ印象を与えるのではなく,より立体感があって,均一にむらなく光り,クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであって,その輪郭も,散形花序のようにボール状の丸みを帯びたものではなく,凹凸のある刺々しい印象を与えるものであるから,被告作品から原告作品の本質的特徴を直接感得することはできないというべきである」と結論づけています。その判断の元になったのは、以下の相違点に対する検討です。

エレメント全体の構成,形状

すなわち裁判所は、全体の構成、形状に関する相違点について、「原告作品と被告作品は,原告エレメントが剣先状の花弁と,その内側に配置された大きな星形状の花弁状と,さらにその内側に配置された小さな星形状の花弁から構成されているのに対し,被告作品の大エレメントは,大きな6個の大両刃部と小さな3個の小両刃部から形成され,小エレメントは,小さな3個の両刃部から構成され,大エレメントの小両刃部は大両刃部の間に配置され,小エレメントの両刃部は,大エレメントの互いに隣り合わない3個の小両刃部に対応する位置に配置されている点で相違する(相違点D)」と評価しています。

花弁又は両刃部に設けられた折り線

また、折り線についてはも、裁判所は、「原告作品と被告作品は,原告エレメントでは,ミウラ折りの要素を取り入れ,原告エレメントの各花弁に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は平行であり,この斜め方向の折り線が等間隔のジグザグ線を構成しているのに対し,被告エレメントの両刃部に設けられた中央線から斜め方向の複数の折り線は,傾斜角度が異なり,等間隔のジグザグ線を構成していないことから,被告エレメントがミウラ折りの要素を取り入れているとはいえない点で相違する(相違点E)」と述べ、さらに、「これに関連して,原告エレメントは,大きな剣先状の花弁,大きな星形状の花弁及び小さな星形状の花弁が,いずれも四角形で構成されるのに対し,被告作品の大エレメントの大両刃部の上端等が三角形で構成され,四角形で構成されるのはその一部にすぎないという点においても相違している(相違点F)」とか、「上記のとおり,原告作品のエレメントが,ミウラ折りの要素を取り入れていることを特徴とし,これにより豊かな陰影を形成するとともに,柔らかい丸みを帯びた輪郭を形成しているのに対し,被告作品のエレメントは,大両刃部の上端等が三角形で構成され両刃部の先端が鋭利で様々な方向に突き出していること(相違点G)もあいまって,より立体的で人工的な造形物であるとの印象を看者に与えるものとなっている(特徴Y①)」と相違点を評価しています。

シートの素材

さらに、シートの素材について裁判所は、「原告作品と被告作品は,原告エレメントには,乳白ポリエステルシートが用いられているに対し,被告エレメントには,プリズムシートが用いられているという点で相違する(相違点B)。原告エレメントに用いられている乳白ポリエステルは,光を拡散させる光学的特性を有することから,光源からの光は拡散し,柔らかく豊かな陰影を形成することになるのに対し,被告エレメントに用いられているプリズムシートは,透過と屈折がその光学的特性であることから,鏡面反射も加わると,クリスタルの塊を思わせる,小さな虹を伴ったまばゆいばかりの光の塊となるという性質を有する。このような素材の違いにより,原告エレメントは,光源からの光により乳白色に光り,柔らかく豊かな陰影を形成しているのに対し,被告エレメントは,フレームの内部に設置された光源の光の明るさが均一にむらなく光り,クリスタルのようなまばゆい輝きを放つものであり,原告作品とは全く異なる印象(特徴Y③)を看者に与えるものとなっている」と評しています。

花弁又は両刃部が伸びる方向

さらに、裁判所は、「原告作品と被告作品は,エレメントの側面視において,原告エレメントは,大きな剣先状の6個の花弁及び大きな星形状の花弁の上端となる面が,水平方向を基準に,中心から上斜め方向に伸びた後,水平な角度となるのに対し,被告エレメントにおいては,大エレメントの大両刃部及び小エレメントの両刃部の上端が水平より上斜め方向に伸び,大エレメントの小両刃部の上端が水平より下斜め方向に伸びるなど,その端部が様々な方向に突き出している点で相違する(相違点G)」と述べた上で、「このような花弁又は両刃部が伸びる方向の差異により,原告エレメントは,フレームの表面に沿う方向に花弁が広がり,全体として,原告作品の表面は花冠が集合したようなボール状の丸みを帯びた印象を看者に与えるのに対し,被告エレメントの両刃部の先端はフレームの表面から離間する方向やフレーム表面に向かう方向など様々な方向に鋭く突き出していることから,被告作品の表面は凹凸があって刺々しい印象(特徴Y②)を与えるものとなっている(相違点I)」としています。

以上の検討を踏まえて、裁判所は、上記で述べた様に、相違点からも被告作品から原告作品の本質的特徴を感得することはできないと結論づけています。

結論

以上の通り述べて、裁判所は、被告作品は原告作品の表現上の本質的特徴を有さないとして、翻案権侵害、同一性保持権侵害を否定しています。

意匠登録無効審判で意匠としての類否も否定されているように、実際にも、本件で問題となっている紛争の本質は外観・表現部分の盗用というよりも工法・アイディアの盗用の部分ではないかと感じます。そうすると、本件紛争の実質は著作権法の範疇からは外れてくる、どちらかというと特許や実用新案の守備範囲の部分とも思えます。

実際に特許庁ウェブサイトでは照明用シェードの特許取得例も見つかります。

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