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知的財産高等裁判所令和5年3月27日判決・裁判所ウェブサイト掲載は、[ゲームにおけるプログラム、対戦ゲームサーバ及びその制御方法の発明]の補正が適法とされた事例です。

本件発明の内容

本件発明は、ユーザー同士が対戦する際に、その対戦割り当てを制御する方法の発明でした。

つまり、本件発明は、請求項1に即して簡単に言えば、例えばスマートフォンなどのデバイスについて、ユーザーID(ユーザーに形式的に振られる数値)と、ユーザー情報(ユーザーごとに異なる内容)をまず管理し、さらにその管理されたユーザーを対戦ゲームを有利に進める強さと称すべきパラメーターによりそれぞれの区分に分類し、対戦要求の相手を区分ごとに適切に選定し、自動的に対戦相手を割り当てる発明でした。

この発明は、拒絶査定を受けて複数回補正されています。例えば、請求項1は、下記のとおり変遷しています。

出願時の請求項1

【請求項1】 複数の通信端末に対して対戦ゲームを提供するコンピュータに、 前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユ ーザの強さを算出するためのユーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づ けて管理するステップと、 前記ユーザ情報に基づき、ユーザが保有する全てのユニットの中から一部 のユニットを、所定の条件を満たすように自動的に抽出するステップと、 抽出したユニットに基づき前記ユーザ情報に応じた強さを決定するステップと、 1つの前記識別情報を含む対戦要求を前記通信端末から受信した場合に、 当該識別情報に対応づけられたユーザ情報に応じた強さに基づいて選択した 1以上のユーザに係る対戦相手リストを、当該通信端末へ送信する対戦相手 リスト送信ステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。

第一次補正時の請求項1

複数の通信端末に対して一ユーザ対一ユーザの対戦ゲームを提供するコン ピュータに前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユ ーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づけて管理するステップと、 前記ユーザ情報に応じて、強さの下限値及び上限値により定められた強さ の各段階のうち、前記ユーザがいずれの強さの段階であるかを決定するステ ップと、前記ユーザから対戦要求を受けた場合、前記識別情報に対応付けられたユ ーザ情報に応じた強さの段階に基づき、当該強さから所定範囲内の同じ強さ または異なる強さの段階の他のユーザとの対戦を開始するステップと、を実 行させ、 前記対戦を開始するステップは、前記下限値及び上限値により定められた強さの段階毎に設定された対戦相 手の強さの上限および下限、ならびに、当該対戦相手の強さの上限および下 限内に含まれる弱者の割合および/または強者の割合に基づいて、自動的に 対戦相手候補であるユーザを抽出し、当該対戦相手候補であるユーザの中か ら前記ユーザによって決定された他のユーザとの対戦を開始することを特徴とするプログラム。

第二次補正時の請求項1

複数の通信端末に対して一ユーザ対一ユーザの対戦ゲームを提供するコンピュータに、 前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユ ーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づけて管理するステップと、 前記ユーザ情報に応じて、数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めるこ とが可能な所定のパラメータである強さの下限値及び上限値により定められた強さの各段階のうち、前記ユーザがいずれの強さの段階であるかを決定す るステップと、前記ユーザから対戦要求を受けた場合、前記識別情報に対応付けられたユ ーザ情報に応じた強さの段階に基づき、当該強さの段階から所定範囲内の同 じ強さまたは異なる強さの段階の他のユーザとの対戦を開始するステップと、 を実行させ、前記対戦を開始するステップは、 前記下限値及び上限値により定められた強さの段階毎に設定された対戦相 手の強さの段階の上限および下限、ならびに、当該対戦相手の強さの段階の 上限および下限内に含まれる弱者の割合および/または強者の割合に基づい て、自動的に対戦相手候補であるユーザを抽出し、当該対戦相手候補であるユーザの中から前記ユーザによって決定された他のユーザとの対戦を開始す ることを特徴とするプログラム。

本件訴訟の争点

本件における争点は、第二次補正の際に付け加えられた「強さ」の意味内容として、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めるこ とが可能な所定のパラメータである」という意味内容を付け加えることが特許法上適法な補正と言えるか否かでした。

すなわち、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、原則として、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければなりません(特許法17条の2第3項)。

 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)  特許法第17条の2 第3項

「強さ」の意味内容として、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めるこ とが可能な所定のパラメータである」という意味内容を付け加えることが「特許請求の範囲…に記載した事項の範囲内」か否かが争われたのが本件です。

知的財産高等裁判所の判断

以上の争点に対して、知的財産高等裁判所は、本件補正は有効であると判断し、原告の請求を認容しました。

まず、知的財産高等裁判所は、本件「発明の技術的意義は…ユーザの強さの段階を基準として所定範囲内の 強さの段階にある対戦相手を抽出することにより…対戦相手間の強さに大差が出て勝敗がすぐに ついてしまう戦いの数を低減することができ、また、対戦相手の強さに一定の ばらつきを含ませて対戦ゲームの難度を変化させ、ユーザのゲームに対する興味を増大させることにある」と述べました。つまり、本発明は、大差がつく勝負にならない対戦を減らすことに意味があるとしました。

そして、「「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、 攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが 本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第 2の2⑵イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)」と指摘しました。 確かに、ゲームのパラメータが攻撃力と防御力だけから構成されるゲームというのは、現代においては例外的というのは、一般的な理解ではないかと思われます。

その上で、知的財産高等裁判所は、「対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユー ザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細 書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、 ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当」と述べています。

そして、「「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえ て体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない」、言い換えれば、「「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的 意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付 加的な事項にすぎないと認められる」と判示しています。 何も、強さを攻撃力と防御力に限定する意味は、現代のゲーム事情に照らしてないよね、ということを述べています。

そうすると、「当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃 力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」 に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所 定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない」ことになります。

よって、「第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内 においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反 するものではない」ということになります。 つまり、ゲーム上の強さという概念を攻撃力と防御力に限定してもいいが、それよりも俊敏さなどの別の要素を強さに加えても、常識的に考えて技術的に別のものとまで評価できないということを述べています。

以上から、特許庁の判断は誤りであって、補正は認められるべきであったと述べて原告の請求を認容しています。

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