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応用美術に関する著作物性についての重要裁判例である、平成26年8月28日知財高裁判決・判例時報 2238号91頁[ファッションショー事件控訴審]をご紹介します。

事案の概要

本件は,「控訴人らが,被控訴人日本放送協会(以下「被控訴人NHK」という。)は,被控訴人株式会社ワグ(以下「被控訴人ワグ」という。)従業員を介して,控訴人らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映像の一部である…「本件映像部分」…をそのテレビ番組において放送し,これにより,控訴人有限会社マックスアヴェール(以下「控訴人会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに控訴人…の著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被控訴人らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被控訴人ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,控訴人会社につき943万4790円,控訴人…につき110万円…の連帯支払を求め」た事案でした。そして、「原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らがそれぞれ前記裁判を求めて控訴し」ました。

著作物性侵害が主張された映像部分

「本件において,控訴人らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張」しました。

したがって,「上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要とな」りました。

衣服やアクセサリーなど応用美術の著作物性について

本件知財高裁は、下記のとおり述べて、応用美術の著作物性について、分離可能性説を採用したと考えられています。なお、下線部は弊所が追記したものです。

本件ファッションショーにおいて用いられた衣服やアクセサリーは,主として,大量生産されるファストファッションのブランドのものであり(甲1ないし13,丙1,弁論の全趣旨),これらは,その性質上,実用に供される目的で製作されたものであることが明らかである。そして,控訴人らも,本件ファッションショーにつき,シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートと,リゾートラグジュアリーパーティースタイル)をコンセプトとしたものであるなどと主張しており,本件ファッションショーが上記の各場面における実用を想定したファッションに関するショーであることがうかがえることに照らすと,上記の化粧,髪型,衣服及びアクセサリーを組み合わせたものである前記イ記載の①,②,③及び⑥(⑥については,ポーズ及び動作の部分を除く。)は,美的創作物に該当するとしても,芸術作品等と同様の展示等を目的としたものではなく,あくまで,実用に供されることを目的としたものであると認められる。

 そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物(いわゆる応用美術)が美術の著作物に該当するかどうかについては,著作権法上,美術工芸品が美術の著作物に含まれることは明らかである(著作権法2条2項)ものの,美術工芸品等の鑑賞を目的とするもの以外の応用美術に関しては,著作権法上,明文の規定が存在せず,著作物として保護されるか否かが著作権法の文言上明らかではない。

 この点は専ら解釈に委ねられるものと解されるところ,応用美術に関するこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁の判例(最高裁平成10年(受)第332号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)によれば,まず,上記著作権法2条2項は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである。

また,著作権法2条1項1号の上記定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。

 他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,上記2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはできないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解すべきである。

平成26年8月28日知財高裁判決・判時 2238号91頁[ファッションショー事件控訴審]

応用美術の著作物性について

なお、応用美術の著作物性については、下記のリンク先で詳述しています。

舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて

また、本判決は振付の著作物性についても検討しています。ファッションショーの振り付けについて判断した貴重な判示部分と思料されます。

各モデルの上記ポーズ又は動作は,そもそも応用美術の問題ではなく,ファッションショーにおけるポーズ又は動作が著作物として保護されるかどうかとの問題である。しかし,これらのポーズ又は動作は,ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきであり,上記ポーズ又は動作において,作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって,これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。また,同様の理由で,これを舞踊の著作物と解することもできない。  控訴人らは,上記ポーズ又は動作の特徴的な点として,モデルが紙袋を持ったり,右の手の平を広げて耳に当てる行為や,両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりを指摘する。しかし,控訴人らの主張によれば,これらの動作は,本件ファッションショーの中でギフトを与え,スポンサーであるメイベリンがサンプリングを行えるようにするためのもので,観客のスクリーミングを誘うなどの目的でなされたというのである(原審における2012年12月21日付け原告ら第2準備書面16頁ないし17頁)。そして,上記目的のための表現として上記ポーズや動作をすること自体は特段目新しいものとはいえない。  また,控訴人らは,ファッションショーにおいて上記のような動作等をさせることが控訴人Xに独創的なものである旨主張する。しかし,仮にファッションショーにおいて上記のような動作をさせることが目新しいものであったとしても,それ自体は思想又は感情の創作的表現であるとはいえず,上記動作等に著作物性が認められることの根拠となるものではない。  よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。

平成26年8月28日知財高裁判決・判時 2238号91頁[ファッションショー事件控訴審]
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