最二小判令和4年1月28日・裁判所ウェブサイトは、離婚慰謝料の遅滞時期を判断した最高裁判例です。
上告人と被上告人は,平成16年11月に婚姻の届出をした夫婦でしたが、平成29年3月に別居するに至りました。
本件は,被上告人が,反訴 として,不法行為に基づき,離 婚に伴う慰謝料及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割 合による遅延損害金の支払を求める事案でした。
原審は,被上告人の離婚請求を認容し,被上告人の慰謝料請求を120万円 の限度で認容すべきものとしました。
その上で、被上告人の慰謝料請求は,上告人が被上告人との婚姻関係を破綻させたことに責 任があることを前提とするものであるところ,上記婚姻関係が破綻した時は,平成 29年法律第44号(以下「改正法」という。)の施行日である令和2年4月1日 より前であるとして,上記120万円に対 する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請 求を認容すべきものとしました。
しかしながら,最高裁は、原審の上記判断は是認することができないと判示しました。
最高裁の判示した理由
最高裁判所は、「離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるもの であり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,そ の請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである」と述べます。
そし て,「不法行為による損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要するこ となく,遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月 4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)」から、「離婚に伴う 慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥る と解するのが相当である」と判示しました。
本件における当てはめ
本裁判例は、以上によれば,離婚に伴う慰謝料として上告人が負担すべき損害賠償債務 は,離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥るというべきであるとして、したがっ て,改正法の施行日前に上告人が遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参 照)ということはできず,上記債務の遅延損害金の利率は,改正法による改正後の 民法404条2項所定の年3パーセントとなると判断しています。
離婚に伴う慰謝料と別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料を請求する余地はない
なお,本判例は、被上告人の慰謝料請求は,上告人の個別の違法行為を理由とするものではないとした上で、離婚に伴う慰謝料 とは別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料が問題となる余地はないというべきであると判示しています。このように、婚姻関係の破綻につながった違法行為が個別に不法行為になれば格別、そうでない場合は、離婚慰謝料と別に、婚姻関係破綻についての慰謝料は請求できないと判示しています。
その上で、被上告人の慰謝料請求は,離婚に伴う慰謝料を請求するものと解すべきであると結論しています。
所感
離婚慰謝料の遅滞時期を判断した最高裁判例です。実務的には影響が大きいのではないでしょうか。