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平成29年1月31日最高裁判所第三小法廷 決定・民集 第71巻1号63頁は、最高裁判所が情報流通基盤であるGoogle社の検索結果についてプライバシー権侵害による削除基準を示した重要な裁判例です。

検索結果の削除請求について

いわゆるグーグルなどの検索エンジンにおける検索結果について、プライバシーや名誉を侵害されている場合、法的に検索結果の削除を請求できるのでしょうか。この削除請求について、プライバシー権侵害の事案に対して、近時、最高裁判所の考え方が示されました。

請求の法的枠組み

削除請求の法的枠組みについて明らかな条文上の根拠はなく、人格権ないし人格的利益に基づいて削除を請求していくことになります。この点は、下記最高裁判所裁判例でも再確認されています。

対立利益

下記最高裁判所裁判例においては、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となる」ことが示されています。

反面、「検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有するまた…検索結果の提供は…インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と、判示しています。このように、検索結果の削除要請は、個人のプライバシー権と、検索事業者の表現の自由、及び社会一般の知る権利の対立の問題であることが、確認されています。

判断基準

以上を踏まえて、裁判例では、下記のとおり、等価的利益衡量によること、その際に着目すべき判断のポイントが示されました。すなわち、最高裁判所第3小法廷は、「当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」と判示しました。

このように、利益衡量の際に、着目されるポイントは、①当該事実の性質及び内容,②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲、③その者が被る具体的被害の程度,④その者の社会的地位や影響力,⑤上記記事等の目的や意義,⑥上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,⑦上記記事等において当該事実を記載する必要性など,であることが示されています。

その上で、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合という厳格な基準で削除の可否が判断される事になります。

決定書

決定書のほぼ全分です。下線は、弊所によって記入されており、最高裁判所が記入した下線とは位置が異なる部分があります。

平成28年(許)第45号

 

投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

平成29年1月31日 第三小法廷決定

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

(1) 抗告人は,児童買春をしたとの被疑事実に基づき,平成26年法律第79

号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関

する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され,同年12月に同法違反の罪に

より罰金刑に処せられた。抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」

という。)は逮捕当日に報道され,その内容の全部又は一部がインターネット上の

ウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。

(2) 相手方は,利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索

し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者

に提供することを業として行う者(以下「検索事業者」という。)である。

相手方から上記のとおり検索結果の提供を受ける利用者が,抗告人の居住する県

の名称及び抗告人の氏名を条件として検索すると,当該利用者に対し,原々決定の

引用する仮処分決定別紙検索結果一覧記載のウェブサイトにつき,URL並びに当

該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」と総称する。)が提供され

るが,この中には,本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下

「本件検索結果」という。)が含まれる。

本件は,抗告人が,相手方に対し,人格権ないし人格的利益に基づき,本件

検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案である。

3(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的

保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年

4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁,最高裁平成元年(オ)第1

649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成1

3年(オ)第851号,同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決

・裁判集民事207号243頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3

月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁,最高裁平成14年(受)第1

656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。

方,検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅

的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を

整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結

果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムによ

り自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の

方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果

の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有するまた,検索事業者に

よる検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インター

ネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するも

のであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割

を果たしている。そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とさ

れ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表

現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記

役割に対する制約でもあるといえる。

以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索

事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに

属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一

部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該UR

L等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達され

る範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事

等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記

事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と

当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判

断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明

らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除するこ

とを求めることができるものと解するのが相当である

(2) これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで

識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されている

として本件検索結果の削除を求めているところ,児童買春をしたとの被疑事実に基

づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライ

バシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び

性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁

止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。ま

た,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合

の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程

度限られたものであるといえる。

以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処

せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわ

れることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越するこ

とが明らかであるとはいえない。

4抗告人の申立てを却下した原審の判断は,是認することができる。論旨は採

用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

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